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2009年1月 3日 (土)

八女戦国百首和歌「夏日侍」全99首

豊饒美濃守源鑑述奉納百首和歌

         第一次解読  松崎英一(故人)
         第二次解読   姫野恭子
         協力      東 明雅(故人)
          〃       前田 亜弥
 

                                         

 夏日待   

          今伊勢寶前同
                    詠百首和哥 
          美濃守源鑑述

一    立春

君が代のためしにすめる千年川
かはらぬたねに春や立つらむ

      子日        鑑教

さゝれ石の庭に小松を引き植へて
苔のむすまで友とこそ見め

三    霞         鑑實 

朝夕に霞たなびく小松原
きみがちとせの春ぞ久しき

四    鶯        鎮時

春立は谷のつらゝもうぐひすの
こゑうちとけて軒ぞながるゝ

五    若菜       鑑秀

わかなゆへとしとし*分てくるす野に
おほくのはるを我もつミけり

六    殘雪       鑑實

をそくとく消るや野辺の白雪の
跡まで見ゆる草のしたもえ 

七     梅        覚元

心ある友としミばや難波津の
花もさかりの香に匂ふころ

八    柳        弘俊

夜るの雨の晴てやなびく春柳の
露の玉ちるあさ明の庭

九    蕨        孫七

もえわたる野辺のさわらび影は見ねど
あたりの草ハけぶり合けり

十    桜        鑑述

さくら花けふより千ゝの色はへて
いく春までかさかへさかへむ

十一  春駒       嵐竹

つながでも放れぞやらぬ春駒の
野をわかくさや綱手なからむ

十二  帰鳫(帰雁)      鑑冨

見るうちもたちぬかずとや天津雁
雲間にきえて立かへるらん

十三    呼子鳥     鑑教

春の日もよぶこ鳥ゆへくれはとり
あやしきまでにまよひこし山

十四    苗代      鎮續

言葉の花の種まで桜田の
苗代水にまかせてやミむ

十五    菫       鑑栄

むらさきのゆかりにさける菫草
野をなつかしミくらすけふかな

十六    蛙       牧也

雨はるゝ田面の原のゆふぐれを
なくや蛙のこころなるらむ

十七    藤       宗右

岩に生ふる松にかゝれる藤なみも
をのれくだけて春ぞ暮けり

十八    款冬(山吹)   鑑栄

足曳の山吹さきてたそかれの
春をのこせる色にこそあれ

十九    三月盡      孫七

伊勢のうミや波よるもくさかきためて
くらす神代の春はいく春

二十  更衣     鑑實

たちきつる春の袂のおしければ
ぬぎかへがたき夏ころもかな

二十一   卯花   鑑述

曇なき月のひかりや卯花の
かきほあらたにかくるしらゆふ

二十二   葵     鑑教

詠(ながめ)よとおもはす露やかヽるらむ
おりにあふひの花の朝更

二十三   郭公(ほととぎす)  鑑述

ほとヽぎす心づくしの空音とも
まだ聞あへず夜半の一こゑ

二十四  菖蒲       覚元

えにしなき身ハあだ波の菖蒲草
たが家づとのつまとならまし

二十五  早苗       鑑述

小山田の早苗むらむら色つきて
秋にまぢかきかぜそよぐ也

二十六  照射(ともし)   鑑栄

夏山のしげみを頼む小牡鹿の
ともしさすてふいる影はいざ

二十七  五月雨      嵐竹

山川のあさせも此の五月雨に
よしあだなミはたヽじとぞおもふ

二十八  盧橘(ろきつ)   宗右

夢にとふむかしの人の袖の香や
そのまま残る軒のたち花

二十九  蛍        鑑教

うき草にやどる蛍の影もいま
なえをはなるヽゆふ暮の空

三十  蚊遣火      鑑實

まバらなる賎が伏屋のかやり火の
軒よりもるヽ夕けぶりかな

三十一 蝉    鎮時

木間より時雨こヽろになく蝉の
こゑも夕日にほすかとぞ思  *

三十二  氷室     松寿

春秋をわけぬはかりか松がさき
氷室も夏をほかにこそもれ

三十三  泉   宗房

をのずからまたこぬ秋の初かぜや
わきていづみのゆふ暮の空

三十四  荒和祓(あらにこはらひ) 鑑栄

月すゞし川瀬のなミの夕はらへ
こひをせまじと人はいふとも

三十五  立龝    嵐竹

昨日までふくとも見えぬ秋風の
簾にさはる初秋の空

三十六   七夕    弘俊

七夕のあふ夜のとこは天の戸を
をし明かたもいそがさらなん

三十七    萩     覚元

ほのめかす軒端の萩を来てみれば
露うちなびく秋の初風

三十八   女郎花    鑑述

ひとしくも手ふれてやみむ女郎花
をなじ花野の秋はあれども

三十九   薄       鑑栄

花すヽき音信わたる秋風に
あだにやなびくゆふ暮の空

四十     蘭       宗右

秋の野に主あればこそふぢはかま
色香を露のやつさざるらめ

四十一   萩    鑑述

龝の野や千草の色にひきかへて
錦をかざす萩の白露

四十二    鴈(雁)   弘智

いつもきくここちこそせで玉手箱
二見の浦をわたる雁

四十三     鹿     鑑実

さをしかの妻こふ野路の朝な/\
咲ける小萩の露こぼるらん

四十四     雰(霧)   鎮光

明更を遠方人のこころとや
雰うちはらふ袖のゆきかひ

四十五     露      鑑實

をく露は萩の上葉にとヽまらで
つれなく残る秋風のこゑ

四十六    槿(あさがほ)  嵐竹

あだなりと見しは残らじ槿は
世にはてしなき秋ごとの花

四十七    駒牽       松寿

今しばしかげを留よる望月の
駒の行辺も走り井の水

四十八    月         塩亀

あまてらす月を清水にうつしきて
猶かけまつる伊勢の神垣

四十九    擣衣(とうい)   宗房

秋といへばさびしかりけりむば玉の
夜わたる月に衣打つなり

五十     虫      鑑栄

女郎花露にやどりやかしつらん
こころのかぎりしのぶ虫の音

五十一    菊     鑑述

作りなす砌の菊のした水は
くむともつきじ万代のかげ

五十二    紅葉     頼運

玉鉾の道の山かげふきおちて
をらぬ紅葉を袖に見るかな

五十三    秋田     鑑教

種まきし難波の小田は夢なれや
をどろきあへぬ秋かぜの音

五十四    九月尽    通次

長月もけふにうつろふもみじ葉の
かぜの跡とふ友のうれしさ

五十五   初冬   鎮續

山姫や手染の色を白妙の
雲の衣にかへてたつらむ*

五十六   時雨    鑑教

むすぶてふ柴の庵のとこの上に
まなくしぐるヽ雲のよな/\

五十七   霜    鎮時

天つ星ひかりつつゆくあかつきの
空よりやがて霜やをくらむ

五十八  霰    鑑実

閨近き楢の枯葉の玉あられ
音してかへす夜半の夢かな

五十九  雪   鑑述

かきくもる雪に出で立つ朝あけや
枩に花さく岡の辺の山*

六十   千鳥   鑑教

霜さむきよるはすがらのうらなみに
なきたつちどりいづち行くらむ

六十一  氷    牧也

氷るかとかけひの水のたえ/\に
寝覚めさびしきあかつきのとこ

六十二  水鳥   鑑実

打羽ぶくこゑこそたゝね池にすむ
をし明かたの霜やさゆらむ

六十三  網代    鎮續

氷魚のよるながれも見えて田ノ上や
まもるあじろのとこはなれせぬ*

六十四  神楽     覚元

祈てふ事はおろかにあらし世に
しらゆふかけてうたふ御神楽

六十五  鷹狩    鑑栄

ふる雪に狩場の鷹の一つがひ
花をはらへる袖かとぞ見る

六十六  炭竈     鎮時

さしこもる小野の炭がま都にも
こころしられて立つけぶりかな*

六十七   埋火    宗右

さゆる月の老のおもひを埋づますは
何にかからむ夕べならまし

六十八   寒梅    廣吉

木ヽにつむ雪をはらへばはるをまつ
むめの匂ひにをどろかれけり

六十九  歳暮      鑑栄

忘めやあか井の水にとし暮て
わが身のかげをなにとくむらん*

七十   初恋     鑑述

見初つるその面影の身にそひて
わすれもやらぬおもひとぞなる

七十一  纔見恋 *  宗房

ほの見てし人に想ひをかけ初て
打いでぬ間の身をいかにせん

* 纔見恋・・わずかに見たる恋

七十二  不逢恋   鑑冨

今は我見る目も隠す言ふ甲斐も
なく/\袖のうらなみぞたつ

七十三  来不逢恋  嵐竹

とひきてもねぬときなれやくやしくて
おもひわすれじ庚申かな

七十四   度ゝ思恋   塩龜

ついにきてとはぬ仲かな花の春
もみぢの秋の空頼めして

七十五   片思     宗右

雨となり露とみだれて松の葉の
なびかぬ色にとしはへにけり

七十六   恨恋    鑑述

中々に身こそつらけれ今はたゞ
うらむるすぢをいふよしもなし

七十七  祈身恋   鑑秀

色かへぬ槇の下葉に立そひて
祈るこころも誰ゆへの身ぞ

七十八   後朝    藤次

とはぬ間を待ちならひたる夕より
わかれし今朝ぞしづ心なき

七十九   契恋    鑑述

黒かみの雪となるとも契りしは
かはりかはらじ頼むわが中

八十  暁    鑑述

あかつきの枕の夢の覚ぬるは
八こゑの鳥のつげわたる空

八十一  松   弘智

得てうへし松にならへる君が宿を
猶すみよしの神や守らぬ

八十二   竹    宗房

きみが代を久しかれとて植へをきし
たけの臺のかげ越しぞ思

八十三   苔    鑑栄

千代をかね松の下蔭苔むして
雨にいづれも色ぞまされる

八十四   猿(ましら)  覚元

秋の夜の月さへをそき山の端に
慰めとてやましらなくらむ

八十五   山     鑑實

ますらをが山分衣うちきつヽ
渡るや寒き岨の架け橋

八十六   川     鎮光

いかにせん河瀬のなみの色々に
月のさそへる船の行末

八十七   野     鑑栄

見渡せば移りにけりな春の野の
風より他に訪ふ人もなし

八十八    関     通次

せきもりの厳しく見ゆる陰ながら
行き過ぎ難き山さくらかな

八十九    橋     頼運

これも又憂世をわたる心かは
賤が深田を越ゆる柴橋

九十      海路    鑑實

うなばらや浪路はる/\旅だちて
いづくを船のとまりなるらん

九十一    旅     鎮時

明更の空にひかれて旅衣
いく野山をか越してきぬらん

九十二    離別    覚元

中々にうき旅人にともなひて
わかるヽときの袖のくやしき

九十三    山家水    述秀

すみなれて結ぶもいざや流れては
世にいづるてふ山川の水

九十四    樵夫     宗房

けふは又山路の雪を知りそめて
かはる嘆きの袖のくやしき

九十五    懐旧    宗右

古をつみてや誰もしのぶ草
しげる軒端の見しこともなき

九十六    述懐    鑑教

かへりてもおなじ憂世とおもひとる
爪木の山にいつまでをへん

九十七    夢     廣吉

待人はよもきが宿のよるの夢
さむるまくらに風ぞ声する

九十八    尺教(釈教)  宗右

岩つたふよ川の水のつふ/\と
とくをまことの御のりとぞしれ

九十九   祝言    塩亀

なべて世に神の恵みのはやくして
よろこぶ事をかさねつたへん

天文廿四年癸卯  卯月廿五日

(季刊『九州俳句』誌連載随想『暦論』と『連句誌れぎおん』誌上にて公開したものです。)

歌の前に便宜上、番号をうちましたが、原文にはありません。
かなは万葉仮名がつかわれているところが目立ちます。
適宜漢字に変えましたが、最低限にとどめました。
当然、濁点がうたれていませんでしたので、どうしても意味が通じない歌には打ちました。しかし、正直言って、これでよかったろうか。と思うものもあります。ともかく、八女の重要文化財にはちがいなく、それを分けてくださった学芸員さんのおこころに報いるためには、少々のミスには目をつぶり、思い切って公の場に資料を提出することがまず第一の課題だと思いました。

現に、百首和歌を紹介した部分だけ「暦論」をブログ上に公開したところ、一人竹橋乙四郎という奇特な人があらわれて、読み解いてみたいと目下、その周辺の郷土の歴史を洗われているところです。

ふつう、こういう史料は素人の手には渡らず、資料館や保管庫などへ入れられて、お蔵いりとなる運命です。
しかし2001年元旦、ふしぎな運命の導きでかささぎの手に落ち、ブログを通じて竹橋乙四郎という研究者の手に落ちました。
今後、ネットを通じて、さらにいろんな、天文年間を研究しているひとたち、また歴史を研究している方々、百首和歌を研究する人たち、民俗学を研究している人たち、神道や仏教を研究している人たちへと浸透してゆき、人口に膾炙する歌が生れますように、かささぎの旗は祈っております。さいごに、柳川古文書館のなさっておられます「古文書解読講座」(無料)にはたいそうおせわになりました。重ねてあつく御礼もうしあげます。

史料初出:矢野一貞『筑後将士軍談』に「天文歌人」の見出しで、鑑述と鑑教の歌のみ紹介されている。

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