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2014年4月25日 (金)

龍の谷から 9 「 しんらん」のせまりくる足音と水月さんのお便り

小説文・五木寛之

  せまりくる足音(3)

「わたしには、きこえるのだ
よ」

と、竜夫人(りゅうぶにん)は目をとじて、
遠くの物音に耳をかたむける
ようなしぐさをした。
{なにがきこえるのでござい
ますか」
申麻呂(さるまろ)がたずねた。竜夫人
の口から小さなつぶやきが
もれた。
「なも、あみ、だん、ぶ、な
も、あみ、だん、ぶ。なも、
あみ、だん、ぶ・・・・」
申麻呂がけげんそうに、
「それは、念仏のようにもき
こえますが」
竜夫人はうなずいた。
「そうだ、四十七年前、つめ
たい風の吹く六条河原で、
大波のように響き渡った念
仏の声だ。安楽房遵西(あんらくぼうじゅんさい)さま
の首が河原にころがったと
き、何千人もの人びとが役人
の制止にさからって、この念
仏に唱和したのだよ」
竜夫人はため息をついた。
「その念仏の声が、いまも耳についてはなれない。日ごと
夜ごと体の奥からわきあがっ
てくるあの声とともに、わた
しはながい年月を生きてきた
のだ」
「その斬首のとき、竜夫人さ
まはその場にいらしたのです
か」
と、申麻呂がきいた。そう
だ、と、竜夫人はいった。
「あれは二月の日ぐれどきの
ことだった。無数の人びとが、
そこに集まってきたのだ。そ
して検非違使(けびいし)の役人や兵たち
の制止をものともせず、なも、
あみ、だん、ぶと大声で叫
びつづけたのだよ。わたしは、
いまもあの声を忘れない。い
や、忘れることができないで
いる」

~五木寛之『しんらん親鸞  完結編』(292)
西日本新聞2014年平成26年4月25日金曜朝刊より引用

水月さんのお便りをご紹介する前に、けさの新聞小説に
ちょうど安楽房の記憶が語られている、それもトラウマのようになっているものを、ひかせてもらいました。

(かささぎってさ。しんらんさまのご生涯のなに一つ知らないのに、無知なのに、降ってくるんだよねえ。いろいろとさ。いやんなるよね。めんどうで。)
水月さんというとても熱心な「調べものの鬼」みたいな坊さんまで飛び入りしてくるしさ。
びっくりだよ。
ちゃんとしらべてくださったんですよ。

かささぎが異常に気になった、例のみだりがましく、ただ一語を。

お便り文・水月

貴女が「魚の骨みたいにひっかかっている」という「みだりがわしく」について、拙稿に「その証拠はまず、『みだりがはしく(猥)』であって、それはよい」と、深く立ち入っていないところから来るようですね。それは古田武彦氏が拙稿の冒頭に記したように、「その核心をなすのは、『みだりがはしく(猥)』で、当時の申状(裁判に提出する訴状)における訴えの焦点を示す言葉である」といわれているからです。そこでこの語については、古田氏のいわれることにしたがい、検討を加えませんでした。いま改めて調べてみますと、次のようです。
まず読み物として著された氏(古田武彦、かささぎ註)の『人と思想8 親鸞』(清水書院、1970年)101頁には、「その第二、抗議の焦点をキッパリと『住蓮・安楽たちの死刑』においている。その証拠の一つは、『猥がわしく死罪に坐(つみ)す』といっていること。『猥がわしく』ということばは、『勝手・不法にも』という意味だ。そのころの申状(裁判に提出する訴状)において、訴えの焦点を示すことばなのである」といわれています。
次に論文を集めた著作『親鸞思想─その史料批判─』(冨山房、1975年)には、今の問題と異なりますが、501頁に「鎌倉時代は古代世界の崩壊の中より生まれ、新旧体制の交錯期にあたっていた。その矛盾のために、訴訟が盛んに行われた時代なのである」といわれています。
そして問題の「猥」について、158頁には「その最初の手がかりとして、わたしはつぎの各訴陳状文書に出現する『猥』の用法に注目しよう」といって、三つの文書例を挙げられ(まったく読めない字があるので省略させていただきます)、「右の各事例が示しているように、『猥』の語は訴陳状中の慣用語であり、訴陳の中軸をなす具体内容に冠して用いられるものである。言いかえれば、もっとも明白で、もっとも許しがたき不法事実として、訴陳者の訴求する、具体的行為の核心を指すものである」といわれています。
また534頁には、次のような例を出されています(返り点がありますが、このテキスト文書では記せませんので省略します。また「…(中略)…」とあるjのは原文通りです)。
(5)謹考旧貫。善通寺者。弘法大師御誕生之霊地也。…(中略)…而末代之吏動国衙之妨。?媒之輩。恣致虜掠企。因?建仁三年国務之時。停止国司之妨。可付寺家之由。被成庁宣畢。而権門之輩。望取件寺。僅雖進年貢之上分。不随寺家之下知。仍令言上子細之後。…(中略)…忽以無道横令押領。…(中略)…去元仁元年十一月…(中略)…依宣行之。  (寛喜元年五月十九日 左弁官下。東寺。善通寺文書。)
この文書をもって氏は、「(5)は特に注目すべき文書である。善通寺側が所領問題において、『権門之輩』が『猥しく』みずからの所領権を侵犯した『無道・横令』に対して厳しく抗議した『解状』(申状)の一節である。この『猥』の表現は、権力・門閥を有する相手側によって、『自己側にとって自然権と見なされているもの』が侵犯されていることを挙げて、これに抗議する場合の表現として出現していることが注意せられよう。すなわち、これは上訴文書等における一箇の慣用的表現形式をなしているのであった」といわれています。
こうした古田氏の所説によって私は「みだりがわしく」の語を追求することはなかったのです。また古田氏ではありませんが、どこかで「正当な裁判もおこなわずに」という意味であると聞いたことがあります。
ただ貴女は親鸞聖人の「猥」の用法より、真鍋呉夫というかたの俳句に出る「みだりに」にひっかかれているようですね。私にはそれを解読する能力をもちあわせておりませんので、近くの図書館に行って辞書を調べますと(すでに御存知のこととは思いつつ)、次のようでした。
諸橋の『大漢和辞典』七・716頁の「猥」には、「①みだりに。(イ)まげて。(ロ)むやみに。(ハ)いやしくも。②みだれる。みだれまじる。③すべる。同じくする。④おほい。⑤さかん。盛になる。⑥つむ。積つたもの。⑦あつい。⑧いやしい。⑨平凡。⑩にはか。とみに。⑪つかれる。よわい。⑫かへる。⑬犬の吠える声。⑭犬のみつご。」とあります。
白川静氏『字通』1680頁には、「声符は畏(い)。〔説文〕十上に「犬の吠ゆる声なり」とあり、犬がみだりに吠えかかる意とする。「猥(みだ)りに」はもと自謙の語で、畏は畏懼する意。おそれはばかることをいう。のち猥細・猥雑・猥褻など、みだりがわしいことをいう。①みだりに。いやしくも。まげて。②いやしい。みだれる。③おおい。さかん。④みだりがわしい。つかれよわる。」とあります。
『角川古語大辞典』5・489頁には、「秩序・風習・規律などが乱れているさまについて、不愉快に感じるときにいう」とあります。
『日本国語大辞典』9・1301頁には、「①秩序や規律、風儀にもとるさま。②整然としていないさま。乱雑であるさま。③思慮、分別がなく、いたずらであるさま。乱暴なさま。④心の平静を失っているさま。とり乱しているさま。⑤男女関係が乱れているさま。好色めいているさま。みだりがましい。」とあります。
こうした意味のなか、真鍋さんの「みだりに」はどれに当てはまるのでしょう? 何か「自謙の語」というのがちょっと気になります。何となくですが……。
▼返信
水月様
ありがとうございました。
ふしぎなことに、水月さんとであったころ、まえぶれのようにみだりがましく
普段はまったく開かない本を開いてしまい、たらたらと無意識に
そこのその、たった一つのことばが妙に気になったということ、そして、
なぜ呉夫氏はその言葉をそこに使ったのかなあ、べつにマイナスの
意味にはとれないよ、ここはプラスだよね。という妙な違和感を
かんじ、そこをもう少しなぜなのか掘り下げたいと思った、という
ことで、水月さんの書かれているとおりです。
なんと、わたしは親鸞の生涯をほとんど知らないので、だから、
水月さんの文章を打ち込むことが新 鮮であるわけなんですが、。
あともう一つ、真鍋呉夫という連句人の青年のころの句集のなかにも、
ふしぎな一句がありまして、後鳥羽院とまっすぐつながっておるのです。
哀しみつのりくれば白靴はきもあへず   呉夫
白菊に人の心ぞ知られける
移ろひにけり
霜も置きあへず          後鳥羽院  
そうかこのためだったのか。
みだりに、という俳人の前書のなかの一語に拘泥した理由。
よかった、きちんと古田武彦先生の本から取り出して、
検証してくださって。
これがひじょうに大事なんですよね。
ほかにも同じ言葉を使っての争議があったということ。
ではでは。ありがとうございました。。。姫野

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