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2013年6月 3日 (月)

コラム「時代を読む」~アンジーの乳房はパーツか  阿部重夫

アンジーの乳房はパーツか

   阿部重夫・文章

ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリー(アンジー)が乳房を切除し、ロサンジェルス・タイムズへの寄稿で自ら公表した。遺伝子検査で乳がん確率が87%、卵巣がん確率が50%の遺伝子BRCA1がみつかったからだという。

一瞬、思った。アンジーの決断はひとごとではない。30億のDNA塩基対が全て判明する遺伝子検査が劇的に安くなる「遺伝子革命」が、ヒトの行動を変える実例がこれなのだ、と。

すい臓がんで逝ったスティーブ・ジョブズがこの検査を試みた4年前は10万ドル以上かかったが、今は簡易キットで299ドル、来年には全検査でも100ドルに下がると言われている。

今はやりの「ビッグデータ」の宝庫とはあなたの遺伝子なのだ。誰しも遺伝子の「傷」(スニップ)を持ち、血液検査のように一覧表で「○○がん確率」を知る時代が目前に迫っている。

推進者であるNIH(米国立衛生研究所)のフランシス・コリンズ所長が、自ら検査してアンジーと同じBRCA1がみつかった衝撃を自著で書いている。「男性でもいたたまれない。娘に遺伝していないか」と心配で悩んだ、と。

アンジーは祖母も母も乳がんを患い、母は10年間の闘病の末、6年前に56歳で世を去った。アンジーは養子3人に加え、夫のブラッド・ピットとの間に双子を含む3人の実子を産んだ「6人の母」。子どもたちに同じ不安に苛(さいな)まれないよう、いずれ卵巣も切除するという。

そこまでやるか。いくら大スターの資産家だからできるとはいえ、サイボーグのように人体のパーツを外して捨てられるだろうか。80年代のSF「ニューロマンサー」さながらだが、魂なき肉体を廃品と見ず、本人の亡骸(なきがら)と見て丁重に葬る日本ではそこまで割り切れまい。

スニップはどんな人でも100カ所以上ある。いちいち臓器を捨てていたら、人体がなくなるし、完璧な人間などいない。日本人なら欠陥遺伝子と“共生”しつつ、発症するまで節制に努め、こまめに健康診断して、いざ発症したら初期段階で手術という微温的な処方を選ぶだろう。

アンジーだって、術後の乳がん確率がゼロになったわけではない。全摘ではなく、部分切除のあとはインプラントだそうだが、この断固としたがんとの戦い、彼女の心身観も影響していそうだ。

彼女は刺青(いれずみ)マニアだった。かつての愛人の名は今やレーザーで消して、子どもたちの名が入っているという。父は名優ジョン・ボイトだが、早く別れて母子家庭で育ち、十代で自殺衝動に駆られたこともあり、葬儀屋志望だった。

精神病棟の少女たちの葛藤を描いた映画「17歳のカルテ」でアカデミー助演女優賞を受賞したが、自らの思春期を投影して地で演じたのでは? その強烈な自我は自らのイメージづくりに発揮され、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使を務めて、エチオピアやベトナムなどの児童3人を養子にしたのは、率先垂範のつもりだろう。

他方、度を越したメディア干渉をニューヨーク・タイムズが暴露している。乳房切除も、徹底した計算ずくで生と死の境の綱渡り、自らの人体を交換してみせる人為の演出でないとは言えまい。だが、それが「人為のユートピア」アメリカの本質でもある。

人為でも力ずくで自然に変える―それが遺伝子操作なら、まさにアメリカの権化だろう。「白鯨」の作家、ハーマン・メルヴィルがこう書いている。

「〈死〉そのものが〈生〉に変わるということは、まったくアメリカの驚異なのだ。それゆえ政治制度までが、他の国ならば人為性の極みに見えるはずなのに、自然法の神的徳性をまとっているように見える」

まさにアンジーは人為の女神。日本でこの割り切りに対抗するとすれば「何ンゾ鬼アラン、又神アラン、生テ働ク処、コレヲ神トスベキ也」という無鬼(無神)論を書いた江戸時代の大阪商人、山片蟠桃くらいか。

(注)BRCA1という悪名高い遺伝子が出てきますが、「BRCA」とはbreast cancerの略です。

ファクタブログより転載しました。

http://facta.co.jp/blog/archives/20130528001195.html

阿部さん、いつも、ありがとうございます。
昨日アンジーのおばさんが乳がんで亡くなったとニュースが報じていましたね。
それを知ると、にわかに生々しく、身につまされました。

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コメント

出生前診断もこの一部になるわけですよね。
これからイギリスの事情という文章を読みます。

最近、不育症を知りました。

アンジーの乳房

検索4位

かささぎはさくらさんのブログについた、終末の予言が気になりました。というのも、出雲伊勢同年遷宮の意味を調べていて出合ったものとほぼおなじだったから。
で、あべしげさんのこの文章。
さすが新聞記者、時代のポイントをおさえ、さまざまなことを教えてくれます。知らなかった、遺伝子検査にいくらかかるのかなんて。また、スティーブジョブズも十万ドルでそれを調べていたことも。
さて、この文章のなかに、フランシスという名前がさりげなく出てきます。
わたしはそれが気になりました。
阿部しげさんが書かれた、フランシスコという名を選んだこんどのローマ法王の意味が海鳴りのように重なってくるからです。
また、さくらさんのブログについた世界の終わりのしるし、オーロラをみたアメリカ、という話。ここ☟でも実物の写真が見れます。天象、ふしぎな。
ファティマ第三の予言については、その内容はよく知らないのですが、言葉だけは見たことがあります。
この三人の女の子、写真がありまして、真ん中にも、フランシスがいます。

乳腺密度が低い

で、かささぎの旗の健康カテゴリーにみえているのですが、さがしているうちにここへでました。

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