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2011年5月18日 (水)

『訪れ』

訪れ 

  姫野恭子

黄色の水仙が
固い蕾を解き始めた三月の朝
春一番は突然に
大きな風を巻き
たくさんの雨を降らせ
稲妻を地にはべらせた

いまの雷どこに落ちた・・・?
「黒土じゃろうのう・・」
ふいにじっちゃんの声がする
昔 かみなりが鳴り始めると
どんな農作業をしていても
ほっぽりだして家に駆け込み
茂平じっちゃんは
神棚のしたに隠れたっけ

不思議なことに雷はいつも
くろつちという村に落ちた
雷が落ちるたび土が焦げるから
こんな地名がついたのだろうか
そこには昔から
雷神様を祀る祠があった

永いこと雷神さまは
風雨に晒されていたので
珍しい朝鮮風の
赤松で彫られた像は白っぽくなり
村人の目に
とってもみすぼらしく映った

村人は皆で話し合って浄財を募り
この素朴な像に彩色を施し
ちっぽけなお堂の奥に
ガラス戸を付けて
丁重に収納した

古色蒼然として
気骨のある
野武士みたいだった雷神さまは
ドサ廻りの旅役者のように
思い切り派手な化粧を塗られて
泣きたいような
笑いたいような
怒り出したいような
そんな神妙な表情に見えた

星野川支流の山の井用水で泳いでいると
突然
夕立がくる
夏休みも半ばを過ぎるころ
笹藪の後ろの田んぼに
ぼつぼつと太い雨玉が刺さり
みるみるうちに
澄んだ川が濁流に変わる
ちかくの椎や欅で鳴いていた蝉の声も
鳥の囀りも止み
ただ雨の音 水の音 雷の音
祭りのような嵐の匂い

少女をすり抜けてゆく
生温かい汚れた水
さっきまで一緒に泳いでいた
どこかよその村の子どもたちも
メダカやフナたちも
ちりぢりになって退散する

黒土にしか雷さんは落ちんとよ・・・
いつしか増水した川は
十三歳になったばかりの少女を
力尽くで押し流そうとする

「こん横道者が!はよ逃げんか!」
不意に 死んだじっちゃんの声がして
シャリシャリカキーン
雷が落ちたー

くろつちの雷神さまの方角だ

雨脚が緩くなる
妙によそよそしげに吹く風が寒い
紺色の水着のかすかな胸の隆起が
ちくちくと痛くて少女は
乳首に触れぬよう水着を摑んだままで
ぬるぬるした川藻の土手を蹴り上がる

その夜少女は夢を見た
あの旅役者の雷神さまが燃えている夢
翌朝 
少女に初潮が訪れた

『俳句ざうるす』平成5年?6年?の春の号より引用。
鍬塚聰子さんよりコピーが送られてきました。
ありがとうございます。
なつかしい。
少女時代も、俳句を始めたばかりのざうるすの時代も。

俳句ざうるすで、連句のおっしょさんとであった。
それが窪田薫先生であり、先生からたくさんの連句の本とれぎおんをいただき、私は夢中になりました。

ところで、この自分のつたない詩をよんで、おなじくらいの長さの、福島の詩人の詩をおもいだした。なぜかといえば、原発のことがきになってわざわざ買った週刊誌の一冊に引用されていたからです。さすが一流週刊誌の記者になると、ちがうな。とびっくりしたことをわすれない。それは草野比佐男の『村の女は眠れない』という詩です。なにもない地方、農閑期、おとこたちは仕事を求めて街へ出ていく。残された妻たちの切なさを歌って秀逸でした。
かささぎはこの詩人を何で知ったかといえば、日本農業新聞でです。
米作農家だったころ、(ついこないだまでそうだった)一時期読んでいました。
ちょうど朝日の折々のうた、みたいな詩歌の欄があり、その担当者でした。
私の句もひとつご紹介してくださった。

ぜんたーいとまれ 遠くで虫すだく   恭子

亡くなられました。お悔やみもうしあげます。合掌。

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