無料ブログはココログ

« つるのみそカレーうどん | トップページ | 脇起半歌仙を二つ »

2009年5月 8日 (金)

小森清次句集『江戸菖蒲』に寄せて  

  青木 貞雄(元「九州俳句」編集長・北九州在住)

    『九州俳句』154号(平成21年5月15日発行)より

小森清次さんの第一句集「やまとたける」の跋文の冒頭で、わたしは小森清次さんを、「九重のみどりがよく似合う男の一人だと思う。一見無骨そうな体つきに似合わず、やさしい目で九重連山を見上げる姿は、凡そ雪国新潟の人とは思えない九州の男っぽさを感じる」 と書いた。

今年の天籟通信新年俳句大会の席上、清次さんは句集発刊に対するお祝いの謝辞として、昨年大事なご子息を亡くされ暫くの間、自失の渕に嵌り、仕事も俳句も手につかず、只々子息の牌に対峙する毎日であった、と今にも溢れそうな涙を抑えながら、発刊に至った経緯を述べられた。

句集の評に入るのだが、江戸菖蒲の欄の三頁に大学箱根駅伝十句と題して

 学ランの初駆けに沸く都かな
 はら痛のジンクス雪の権太坂
 一歩入れば箱根は雪の槍ぶすま
 あんちゃんの箱根力走佐渡は雪
 逆さ富士凍(しば)れて我等完走す


ほか五句があり、また数頁置いて、

 素振り千回厳冬ゆるむ気配なし
 補欠でいいさ大根の花まっさかり

に清次さんの隠れた一面に気がついた。俳句の世界は、企業の学歴社会と異なり、学歴や経歴などを滅多には喋らない。清次さんは学生時代を駅伝にまた剣道に、若きエネルギーを燃やしていたに違いない。そう言えば清次さんの発言には、未だに若き血が漲っている。
此処まで来て、あの律儀な清次さんが哀愁に充ちたピエロの姿に変貌する。

 納税のついでに風邪を置いて来る
 水道を出て若水になりすます
 ツケの利く酒屋の角を恵方とす
 字余りのおとこ踏ン張れ春の馬

これらの句を見ていると、哀愁というよりも、おかしみに充ちた滑稽さを感じる。滑稽のおかしみを宗とせざれば、俳諧にあらずと唱えたのは、芭蕉の門弟許六である。いま清次さんの句のおかしさを採るべく、第一句集『やまとたける』 から数句拾ってみた。

 万策の尽きて煮干になりにけり
 ジャンケンに負けて芒となりにけり
 ていねいに並べたんだねいわし雲
 デパートを引っ張ってゆく兜虫
 生涯をすすきのままでおわりけり

こう並べてみると、清次さんのおかしみの質の変遷を伺うことが出来る。

 小森清次句集『江戸菖蒲』三十句抄

ぼくが貰った大往生の冬帽子
尺蠖りのぴんこしゃんこと急ぎけり
切り火打つひとつ女増しの江戸菖蒲
納税のついでに風邪を置いて来る
つちふるやおろおろ昏れる鉄の町
たくあんとめしで御の字去年今年
雪卸し重ねし村を捨てかねる
どんど火のするめの踊る竿の先
白馬も槍も流れて来る雪解
へそくりの中も菜の花日和かな
ジューンブライド婿は越後の鬼ごろし
火遊びを知らない頃のななかまど
さんま焼くだけの七輪渋うちわ
絵に画いた餅の歯ごたえ去年今年
賀を述ぶる骨董品のような顔

雪女振り向かせたら君のもの
まっとうな百合根人生茶わん蒸し
無住寺の美男かずらに騙されて
水道を出て若水になりすます
啓蟄や開けっ放しの大金庫
万緑やひとくち大の塩むすび
秋風のするりと抜ける身八ツ口
ツケの利く酒屋の角を恵方とす
うしろからつつけばへこむ春の月
大佐渡に小佐渡寄り添う春の闇
一徹なカンカン帽でありしかな
寡黙なりし漢(おとこ)の墓標花野燃ゆ
雪掻いて押して人生駆けくらべ
新しき墓にもの言う寒さかな
字余りのおとこ踏ン張れ春の馬

  青木貞雄・抄出

かささぎの旗:姫野のざんげと感慨

小森さん。
新潟の豪雪地帯のひとなのに、長年九州俳句に付き合っておられる小森さん。
そのお名前を拝見するたび、胸の奥に火箸を当てられたような痛みが走ります。それはかささぎが若かりしころ、小森清次句集『やまとたける』 を、こてんぱんにこきおろしたからです

鹿児島の俳人・国武十六夜氏の全句手書きの書による句集は、きれいな和紙の箱に入っていて、とっても立派でした。それなのに、いや、だからこそなのかもしれない、十年前のわたしの目には、それがとてもスカスカのものにしか見えなかった。
採ったのは次の一句だけでした。

木造の郵便局のさくらかな   小森清次

これは今も空でいえます。大好きな句だからです。
なみだがでそうなほど、懐かしい。

九州俳句にこてんぱんを書いたあとの樹(たちき)の新年句会で、はじめて小森さんにお目にかかりました。
猛烈に怒ったおかおで、「あんたね・・・」と言って、わたしをにらみつけておられましたが、ただ頭をさげるだけの私に、諦めたようにフイっと、「もう・・ゆるしちゃる!」 と言って、手にしておられた花束をグイっと押し付けて、去ってゆかれました。
そのときの、清次さんのなんともいえない
お顔。
ガキ大将が喧嘩に負けて、抑えきれない怒りを収拾している時のような。

ほんとはぜったいおまえのことは許さん!!
と、その目が言っていました。
だけど、かささぎは、そのとき、はじめて、
確かな手ごたえを感じたのです。
ものをかくものとしての。
軽蔑されようが怒りまくられようが、書きたいように書くのだ、とおもった。

あれから十年。
この第二句集は、かささぎには、送られては来ませんでした。
かささぎがけなした「やまとたける」が、彼の第一句集であったことにいまさらのように思い至り、天をうち仰ぐのであります。

« つるのみそカレーうどん | トップページ | 脇起半歌仙を二つ »

コメント

俳句をはじめました。戸畑在住で天頼寺通信のことを知り、身近なところで句会があるなであれば参加させてもらいたいとおもっているところです。連絡先を教えていただきたく、めいるしています。
よろしくおねがいします。

戸畑の方ですか。こんにちは。はじめまして。
どなたか存じませんが、かささぎの旗へようこそいらっしゃいました。
戸畑句会、きっとあると思います。
ちょっと数日おまちくださいませんか。
しらべてきちんとお返事いたします。

しらべてまいりました。
ふたつあります。
1天籟句会という名前の句会、俳句誌『天籟通信』の同人の方々の句会ですが、毎月第一土曜、一時から、場所は戸畑生涯学習センター、戸畑駅前の大通りを渡り、小倉方面にほんの少し歩いた所です。

2みろく句会。俳句誌『樹(たちき)』所属俳人鍬塚聰子先生や太田一明先生がいらっしゃる句会です。たしか第四土曜一時からだったと思います。場所はホワイトキャッスル集会所。マンションの集会所です。

どちらも見学なさってみられたらどうでしょうか。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 小森清次句集『江戸菖蒲』に寄せて  :

« つるのみそカレーうどん | トップページ | 脇起半歌仙を二つ »

最近のトラックバック

2020年2月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29