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2009年2月18日 (水)

前田圭衛子の薔薇

一千一日薔薇ぶっちぎる海鳴り    圭衛子

     前田圭衛子句集『ニッポニア・ニッポン』より

この句。
わが師・前田圭衛子の俳諧へは、ここから入りたい。
読んでみる。
口の中で何度もつぶやいてみる。

いっせんいちにち・ばらぶっちぎる・うみなり。

季語は薔薇。初夏。
なぜ一千一日なのか。この数字は何なのか。
そういうことはいっさい問わず、ひたすらこの跳ねるような一句のもつリズムに全身全霊をゆだねてみる。
やがて、見えてくる。
断崖の薔薇。
少し桃色がかった白い薔薇が潮風に揺れている。
薔薇は風とともに潮鳴りを激しく身に浴びる。
いっせんいちにち、しなやかな助走。
バラ、ぶっちぎる、ターンと弾みをつけて跳び箱をとぶように、飛び乗り、消える、消える・・・海の中へ、空の青さへ。
いま、すべてのものの影は消え、なにも見えない聴こえない。
バラぶっちぎる。薔薇ぶっちぎる。ばらぶっちぎる。
海鳴りを海鳴りを海鳴りを。薔薇のはなびらを。花びらを。花びらの香りを。ささやきを。ぶっちぎるほどに強い風。潮の音。潮騒。潮騒。海鳴り。潮鳴り。

この句をよんだとき、わたしはすぐ、芭蕉の佐渡を詠んだ大景の天の川の一句を思った。

荒海や佐渡によこたふ天の河  芭蕉

読み下した胸にひろがるのは、深い沈黙だから。
前田圭衛子は、かくも鮮らしい前衛的な句を詠む俳人であった。
この句を読めば、それがよくわかるとおもう。
説明はなにもいらない。
心が潮風にひりひりと
灼けつく、残像と残響の一句。

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