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2008年10月16日 (木)

拓人よ、連句に来たれ

 俳句誌 『拓』 第22号特別作品評

 ― 木村宜子「ときめき」 恋の座の復権 ―

 曲がる川ときめき欲しき黒揚羽   宜子
 夕映えに川面のきらら恋かしら    〃
 春尽きてゆらぐ灯明炎えたたす     〃
 蝶になる途中の窓や騙し絵や     〃
 翅わって天道虫もわたしもとぶの   〃
 透けてゆく時間の色に春ショール   〃

木村宜子(きむら・たかこ)。黒揚羽のようなひとだった。シニョンに結った黒髪が印象的な、しっとりとした風情の色気のある女性。
前川弘明編集長から特別作品評を書けと有難い指令を戴く。
「ときめき」と題された十二句の作品を眺めて、風水集の作品を眺める。それら十九句に淡々と浮きあがる景色は、妙齢の女性の薄紫の抒情である。暮春の日が没る間際に放つ一瞬の光芒。天道虫となって旅立つ日まで、まだ間がある。
「一片の鱗」と題した文章に、橋本多佳子や三橋鷹女の名を挙げて、一句を書くときの感慨を素直に綴っておられる。だが、その先人二人と比してみれば、印象は淡く控え目だ。

 蛍籠昏ければ揺り炎えたたす    多佳子
 春尽きてゆらぐ灯明炎えたたす   宜子

ニ句とも、うたう心は同じものをうたっているが、情念の起ち上がり方が、ホタルは生身である分、灯明に勝る。それでも橋本多佳子に一石を投じるような句を書いた宜子は、これが自分の詠み方だと小さな声で宣言しているのである。

 曲がる川ときめき欲しき黒揚羽    宜子

ごく平凡な人妻のごく真っ当な不倫願望。うっかり見過ごしてしまいそうである。が、この歌に私は立止る。この景に心ひかれる。なぜなら、余りにも慎ましげだからだ。

大曲(おおわだ)の川を眼下にし、女が夕暮れに立っている。
そこで川は身をくねらせ、大きく蛇行して遥か向うの地平へと溶け込む。川の傍にはセンダンの木があり、かすかによい香りがする。花が咲いているのだろう。その香をかげば、忘れていた想いが胸にあふれる。人を恋い初めたころの切ない想い。誰かを恋うている訳ではない。けれども今ここにないものへ、心は揺れたがる。もの狂おしい情感がたゆたう。
川は曲がる。自らの中に流れる水量の奔りに堪え切れず。
川は走る。奔流となって流れる水が出口を探しているから。
女は川である。川である限り、曲がるときめきを求める。

 春尽きてゆらぐ灯明炎たたす  木村宜子
 灯や明し独り浴後の枇杷剥けば 石川桂郎
 船室の明るさに枇杷の種のこす 横山白虹
 枇杷を吸ふをとめまぶしき顔をする 橋本多佳子

 聖五月涙の痕などぬぐうまい   木村宜子
 葦切や未来永劫ここは沼     三橋鷹女

 透けてゆく時間の色に春ショール  木村宜子
 蜻蛉の夢や幾度杭の先       夏目漱石
 生き堪へて身に沁むばかり藍浴衣  橋本多佳子

 往きに帰りに薔薇の言葉に歩み寄る 木村宜子
 ひと来りひと去り竹の皮落つる   長谷川素逝
 老いしとおもふ老いじと思ふ緋のカンナ 三橋鷹女

 つばめツバメこころ澄む日の朝の空   木村宜子
 紫陽花に秋冷いたる信濃かな    杉田久女

連句的にどこか響き合う句たちを拾ってきた。
三橋も橋本も杉田久女に似て焦点のしぼり方に光がある。

俳句を読んでいて、恋の句に出遇うことは滅多にない。大方は年寄りくさい人生の感興を詠んでいたり、戦争の回想句や、季語をすげ替えたとて何ら差し障りはないような句ばかりが並んでいる。そういうものばかりで人は出来てない。ここに虚構の立ち上がる余地がある。新古今集の値打である。
私は木村宜子氏を連句に引き込めばどうなろうという誘惑に駆られている。なぜならば、「ときめき」は、恋の座におくべき作品だからである。連句こと俳諧の連歌は、恋と月と花を最大の魅せ場として展開してゆく。その点では、連句は俳句よりむしろ和歌に近い感覚が要求されるといえよう。和歌のはじまりが相聞にあったことを思えば、恋の座はゆるがない。一巻の花も花、花の座以上の魅せ場が恋だから。

堂々と恋句が詠めることは、何としてもすてきである。
枯れきってしまっては、大阿蘇の野焼で焼かれるだけだ。
拓人よ、連句に来たれ。光の中であらゆる恋を詠もう。

連句はこれからの世界を救う、「老の文藝」である。

木村宜子評が、どこでどう曲がってしまったか、連句の応援演説になってしまった事をお詫びして筆を措く。

  長崎市前川弘明編集発行『拓』23号より引用
        平成20・10・1発行

 

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