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2007年9月29日 (土)

虫  5

essay  虫  その5

 「あまおう」と名告る苺やクリスマス  恭子

ここ数年苺生産高の王位の座を栃木県に奪われていた福岡県だが、ついに新品種の大粒苺「あまおう」をブランド開発し、この冬(※2002年当時)市場に並んだ。この愛称は一年前に公募で決まったもので、最初に耳にしたときは、「・・ダサいな」 と思った。しかし実際に実物を手に取り食べてみると、なるほどと納得する。大きくて艶があり、中まで紅いし、とよのかよりも甘い。福岡県農業総合試験場で七年もかけて開発されただけのことはある。我が家も来期から甘王苗を植えるが、作ってみなければ欠点はみえない。ちゃんと最後まであの姿の苺がなり続けるのだろうか。これは一種の賭けみたいなものだ。農業は天気や政治や風評などに大きく左右される。そして常に本気が試される。「土」(※「虫」の前に連載していた随想)で以前紹介したことがあるサラリーマンから苺農民に転職した若い夫婦は、今期防虫に失敗し、四つのハウス全ての苺をウドンコ病菌にやられた。原因は何だったのか。菌は眼に見えないけれども、経験の浅い人のわずかな隙をついて忍び込み,繁殖したのだろう。

  菫程な小さき人に生れたし  漱石
  アブラムシ程な小さき人に生れたし 

夏目漱石の俳句でこれが一番好きだ。その虫版。ごきぶりではなく、あの微小な、害虫だがいろんな虫の餌にもなる虫である。真っ先に食べられてしまうという事は、食物連鎖の中での悪人正機説みたいで、いじらしい。

      ◇

「九州俳句」誌の百四十名ほどの俳人の作品に表れている虫を分析してみた。すると意外にもたくさんの虫がいた。多い順に記すと、

蝉33(うち、空蝉12、かなかな2、法師蝉2)、蝶(揚羽)4、蟻6(羽蟻3)、蜻蛉8(赤とんぼ4、秋茜1、糸蜻蛉1、薄羽かげろう1、蜻蛉1)、虫6、螢5、蝸牛3、斑猫2、蜘蛛2、芋虫2、なめくじ2、鉦叩、火取虫、みの虫、根切虫、クワガタ、かぶと虫、ハエ、ミズスマシ、蟋蟀、馬追、ちちろ、虻、ごきぶり。

  斑猫や其処から先は明治の父  清美
  炎昼にいもむし落ちて丸まらず  能定

現代俳句のなかで詠まれる虫は、空蝉と螢と蝶だけだと思い込んでいた。確かに空蝉は圧倒的に多い。しかし思っていたほど貧困でもなかった。戦前の俳句に比べれば、種の多様性は損なわれつつあるけれど、まだまだ俳人の目は多様な生き物を活写しようと懸命なのがわかる。よかった。なんだか幸福なきぶんになってきた。俳句がほかの文芸ともっとも異なるところが、この写生眼だとおもうからだ。見て、触れて、そして感応してうまれるものは、文字に書きとめられることで永遠を生きる。こころやさしい文芸である。

     ◇

この二年単身赴任中の夫を佐賀県に訪ねるときは、かの地のすばらしい図書館から鳥や虫のビデオを借りてくる。同定眼を養いたいから。今年一月末、アトリの一種であるイカルの大群がわが家の裏の柿の木に飛来する。数えたらちょうど50羽いた。五分ほど休んで虫や硬い木の芽を食べ、また飛び去っていく。斑鳩へ帰ったのだろうか。

  伸び縮みして田渡りの群れ花鶏(あとり) 六弥太
    虫地獄・鳥地獄とや冬紅葉         やす子

連句誌「れぎおん」2003年春、41号より引用

  * rokuyata   okabe: 岡部六弥太
  * yasuko   ikeda: 池田 やす子(連句人)

 

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