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2007年9月26日 (水)

岸本マチ子の詩「祈り」

     祈り

           岸本マチ子

昔 人は意志の集中点として

なにもない索漠とした平地に石を置いた

清らかに 清潔に なんのひっかかりもない一個の石

それはみえない存在へ呼びかける

たった一つの愛の回路だったに違いない

清冽な意志の流れの中で

石は日常や 感動や こころを支え様々な文化を生んできた

昔 わたし達の国がすっかり灰になってしまった

時も

石はそこにあった

神が身近である事の恍惚と歓喜

人々は全身全霊をもって神に呼びかける

極限まで登りつめた緊張の祈りの姿が

やがて拝み手となり 掌を手前に向け親指の方向にクルリと廻しこねる動作ができあがる

こうして人は踊ることを覚えたのであろうか

香をくゆらすとか 線香をたくとかでない

神への強い一体感がバネのように哀しく撓い

あの独特の踊りの官能美を底光りさせている

なんという不思議な律動感であろう

心身を解き放ち己れのすべてを投げ出す時

人の姿態はかぎりなく美しい

 

えけ あけず舞 

えけ はべる舞

えけ 男生れても恋知らぬものや

    玉の杯の底も見らぬ

 

心の底からわきあがる歓喜にふるいたち

生命そのものが満ちかがやくとき

祈りの拝み手はとりわけかながなあと

男の背中をさする恋のはべるに変貌する

このような生をいきるとき

踊りはなまめく躍動となり狂喜となり命となる

だが 凝視する眼の背中の

はりつめたあの沈黙は一体なんだろう

ふとこらえ切れず空気を切って流れる炎色

瞬間赤い足袋は乱れ

人は鬼にも蛇にもなる心の闇をのぞく

石はなにもいわない

              

          玉城朝薫作 組踊「執心鐘入」によせて

            あけず舞(蜻蛉舞)

            はべる舞(蝶舞)

 参照) 岡本太郎著 『忘れられた日本ー沖縄文化論』
              1961年、中央公論社刊

      

わたしはこの異様にテンションのたかい詩に、岡本太郎の書いた思想のことばが多々あるからといって、盗作であるとは思わない。あちらがわの石をこちらへと動かし、かたちを整えただけだとの指摘があったとしても、断固として盗みではない。いや、盗みであっても単なるまぬけなぬすみであってはならぬし、そう呼ぶのはまちがいだ。これは岸本マチ子の詩のなかで最高のもの、わたしはとても感動した。ことに最後の連の「だが」で始まる章。あれはなにをいおうとしているのだろうか。はっきりとわからないからこころをつかむ。石はなにもいわない。

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コメント

植物を見続けていると、植物と人は同列、どちらも同じ地球上にぽっと芽生えた一個の固体だと思える。石も同列だと思います。
お互いに相乗効果を保ちながら生きてる。
米が実ったと言えば歌い踊るけど、石に手を合わせるところから始まったとは新鮮な驚きです。

さくらさん、ありがとう!!

この詩はあるひとが盗作だとして糾弾している岸本マチ子で検索したら真っ先にでてくるサイトからの引用であります。一箇所、私には意味不明のところがあり、原詩にあたらねばと思いますが、手にはいらないので、とりあえず。
岸本マチ子氏は今から十七、八年前に西日本新聞の随想欄で「反骨とは」という題の文章をかかれていて、当時の悩める主婦だった私のこころにふれるものがあり、ハガキをだしたら、ていねいな返信にそえて『天籟通信』という俳句誌を下さったんです。それがはじめての俳句との出会いでした。
でありながら、ここがじぶんの奇妙なとこだとおもうのだけど、マチ子氏の俳句を自分のおもう俳句と思えず、師事はしなかった。なぜだったのか、わからない。かんがえたこともない。でも感覚的な違和感があった。
しかし、この詩だけには、とてもひかれました。
この詩のおかげで、岡本太郎とであえました。
詩のなかの石を、「ことば」とおきかえれば、謎がとけるとおもいました。糾弾した人が気の毒なくらい、この詩は立っている。そのかなりな部分が引用でありながら、独立して、きっちりと立っている。それはきっと、岸本氏が沖縄人ではなくよそものであり、しんけんに問いかけた結果だとおもいます。太郎さんと同じ高さで。

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