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2007年9月19日 (水)

俗の細道 1

「俗の細道」という題ではじめて随想を書かせていただいたのは、連句誌れぎおんの13号からでした。11年も前です。まだ札幌の窪田薫宗匠ご健在のころで、とても懐かしく、大岡信さんも「折々の歌」を断筆された今、ぜひ書き残しておきたいと思いました。お暇なかたはおつきあいください。私の原点です。

俗の細道  1(れぎおん版)

         姫野 恭子

平成八年一月十九日、札幌の窪田薫宗匠から今年初めての文韻が届いた。尻取り歌仙二巻と朝日新聞コピーが一枚。正月三日付けのもので、大きく「座の文学、連句は楽し」の見出し。朝日歌壇俳壇の選者の馬場あき子、川崎展宏、稲畑汀子、佐佐木幸綱、大岡信(折々の歌執筆者)の五氏で歌仙を巻かれたものであった。ボス・クボタの文字が、あちこち憤懣に耐えないというかんじで踊っている。ルールを知らないものはこれだからねえ・・まったく、・・・とぼやく姿が見えるようで、ひほひほ笑ってしまった。初心者の私に笑う資格なんてないのだけど。
私は過去十年ひどい投書病にかかっていた人間で、朝日新聞と西日本新聞にはとてもお世話になった。だから悪しざまにはいえないのだ。のだけれど、言っちゃおかなあ・・・。
ずばり、私を俳句へと導いてくださったのは、大岡信の読み間違いであったのである。六年ほど前、

 武士の足で米研ぐ霰かな  服部嵐雪

の読みにおいて、信さんは躓かれた。武士達がたぶん合戦のあいま、アラレが降るなか、足で米を研いでいるのだろう、と。
俳句のはの字も知らなかった私に、この誤読は大きな作用をもたらした。
ほんとはこの句はこうなんだ。
もののふの息せき切って駆けつける姿、白いあられを蹴散らすパラパラという音、薄暗いどんよりとした空!凄い。十七音で時空を超えられるとは!!

大岡氏は私を俳句に導くために、あのような恥をかかれたのだ。信さん、有難う。今度もきっと衆人の耳目をあつめるため、あえてさらし者という役目を引き受けられたのでしょう。

ボス・クボタの連句塾で面白い個性の人を見つけた。その人の名は、神田かこ。たぶんTVに出る神田うのと何の関係もない。(とおもう。)例えば、次の短句。

 徹夜で火コ焚く冷害の田んぼで  かこ

冷害の字は「けがし」 と読ませている。このおそろしく霊的な言葉は、津軽弁だそうだ。実を言うとこれを読んだとき、内心ひれ伏したい気分になった。そういえば昔、朝日新聞の投書欄で、東北人が今でも一年分の米を、冷害に遭っても困らぬよう備蓄しているというのを読んだっけ。そうか。今も苦労して稲作してらっしゃるのだなあ・・と感動したものだった。

去年、矢口高雄の漫画で読んだ『奥の細道』 に、芭蕉が旧態然とした中世回顧の句に別れを告げる、重要な転換点になった句として、

 涼しさをわが宿にしてねまるなり  芭蕉

が、その宿となった尾花沢の紅花商人、鈴木清風宅の太い天井の梁を背景に書かれていた。

「俳諧の益は俗語を正す也」との芭蕉の言葉は、なにも美しい詩的な雅語でなくとも、心の奥深いところから出た肉声であれば、それがそのまま俳諧だとの、逆説なのだろうか。

「ねまる」という尾花沢弁は、膝を楽にして寛ぐことらしい。蛇足ながら、私の住む八女・筑後地方では、「ねまる」とは、物が腐ることであり、はじめてこの句を読んだとき、ウーンなして涼しいとにねまるとね?と、訳がわからなかった。

方言っておもしろい。
俳諧の奥の近道があれば教えて欲しい。え?そんなんがありゃなにも苦労はせなんだって?そうでしょう、と芭蕉の相槌。

  『連句誌れぎおん』13号より引用、1996年4月
  西宮市甲子園、前田圭衛子編集発行

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コメント

2,3日前に読んだ本で八女に関するところにぶつかり大変驚きました。
利華さんとこに書き込みましたので読んでください。

さくらさん。利華さんとこのよみました。
本をよめば詳しいことがわかるとおもうのですが、いま忙しくて読めません。
大石政則日記をすこしずつ読んでますが、軍の授業のなかに占い、人相手相をよむというのがあったというのをよみ、ほへえとおもいました。(些事が気になるたちでして)。
まったくあったりまえのことなのですが、死ぬまでは人は生き生きといきている。

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