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2007年8月15日 (水)

essay  虫

    その1 

          姫野恭子

「帰ろうごたる・・・」
ベッドの伯母がもぞもぞと口を動かし、こう言った。帰るち言うたっちゃ、ここはおばしゃん家(げ)じゃんね。どこに帰ると。昔の古い家がよかったんね。・・そう問いかけると、伯母は宙を見つめ、なおも口のなかからむしを吐き出そうともがく。けれど、すでに伯母の虫の蔵は空っぽで、88年の生涯で使い切り、言葉は一つも口から出てはこなかった。
      ◇
二千年の周期で動くものが、一つあった。
それは深海底流である。深い深い海の底を流れる水は、二千年もの時をかけて、ようやく地球を一回りする。想像もつかぬほど深い海底をゆったりと移動する水。その色、その温度、その塩度。そこには夥しい虫達がいる。きっとこの地上に生きた全ての生命の記憶=アカシックレコードを秘めて、だれにも邪魔されることなく虫達は深眠りしていよう。もうじき、その眠りを「蟲師」 が覚ます。イエス・キリスト時代の水に眠る虫達、起きよ。
           ◇
  
月光の象番にならぬかといふ  飯島晴子
  
月あふぐ気象官ゐる海の底       恭子
  われは知る涅槃の底の静けさを
      されども波の文をも好む  木下杢太郎

そこそこ。そこにいるわ。あなたが、いま、おもったところ。なにもおそれなくていいのよ。わたしたちは、ずっとはるかなむかしから、そこにいるから。
      ◇
なんということだ。日本に米国があった。
それも大分県に。USA・・・ と書いて宇佐。
戦闘の神・八幡さまを祀る日本最古の神宮がある地がUSAとは、神様も人が悪い。石橋秀野の俳句の師の一人でもあった横光利一をもっとよく知りたくて小説を読む。まず『旅愁』 から入る。晩年の自伝的要素の濃い長編である。読むうち、「ああこん人はうちとおなじこつば考えとらっしゃる」 と、非常に驚き、その偶然の一致にひれ伏したいような厳粛な気持になる。利一つぁん! と、気安く声をかけたいような。
昭和十年代後半の戦時下の日本で、アインシュタインの相対性原理にも等しい日本の古い淫祀にまつられている幾何学的な御本体の意味や、大昔の言霊学で音波に函数まで出していた事実を挙げて、古神道も西洋の科学に何ら遜色はないと言い切る先覚者・横光利一。当時の批評では、西洋文明に抗い古神道に逃避したと叩かれた彼の言質の、なんと真実を言い当てていたことだろう。
       ◇

「今はむかし、といふ言葉があるでせう。僕らは何げなくいつも使つてゐるが、どうも恐ろしい言葉ですよ。これがね。」 と突然彼は云つて菊から顔を放し、また濠の中を見降した。ー『旅愁』 より
        ◇
利一は父の里・宇佐に帰郷して取材し、旅愁を書き上げた。
利一と宇佐の関連本で、別所真紀子氏を発見する。氏の本名は、実は満州国誕生を祝した満紀子だったそうだが、中学二年の時に、それを恥じて、ちょうど読んでおられた旅愁の副ヒロインの真紀子にちなみ、ご自分で改名なさったというエピソードを打ち明けておられる。
         ◇
時空間を自由に統べる虫が、笑った。

  連句誌『れぎおん』
(西宮市甲子園・前田圭衛子編集発行)
 2002・春・37号より引用

参照)

深海底流・http://www.nies.go.jp/kanko/news/20/20-4/20-4-04.html

映像作家・龍村仁と『月光』:http://www.gaiasymphony.com/e-28.html   

氷山ルリの大航海:https://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4062092344.html

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コメント

玉ねぎのうた今歌詞みてきていいねぇ。
私、武道館周辺の主と言われるくらい詳しいから、あの歌詞は身にしみるよ。
私にとっても武道館と千鳥が淵は一体だからね。

武道館前行くといつも大物若手歌手のコンサートやってて、どっからそんなに沸いてきたのと言うほど若い女の子が行列作っているのよね。
あの辺の風物詩となっています。

あの建物は、いかにも東洋建築風で、洋物バンドのコンサートは似合わないよね。
でも今じゃ武道館コンサートと言ったら超一流人のあかしとなっていて違和感なし。
本来、武道大会を行う為に立てられたのが、(名が武道館だからね)、こうなったのは、一番初めにビートルズ公演を強行して、洋物の拡大、日本古来文化の破壊をねらったと言う説もある。
思惑通り破壊されたと思うけど、サンプラザ中野さんがこんないい歌作ってくれて、壊されるものあれば生まれるものありですね。


http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=36533(大きな玉ねぎの下で)歌詞。
調べると1985年。歌詞よく読むと、とてもきれい。失恋の歌だし。サンプラザ中野、はげじいのイメージしかなくて真剣にきいてなかった。サビしか歌えない。でも今回歌詞を調べ、地理が少しわかりました。九段下の駅を下りて坂道を・・なーるほど。このころから日本はおかしくなりはじめました。引き算をしなきゃならないのに足し算をずっとやってる。

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