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2007年7月10日 (火)

俗のほそみち(4)

超結社の俳句季刊誌「九州俳句」誌(北九州市八幡区・中村重義編集発行)に連載させていただいた文章から、幾編かをお盆にかけてご紹介したいとおもいます。

じつは、岡井隆の『赤光の生誕』に、蕨とその寓意が述べられているくだりがあって、それを読んでいたら、以前「俗のほそみち」に自分が引用した正岡子規の句、「早蕨や異国の土に殯(かりもがり)」(この句の記憶もあいまいになってきました。日本の土に、だったかもしれない。というのは、外交官の中国人の友を悼む句なんですよね、これは)についての読みを訂正しなければならないんじゃないかと気に掛りだし、確認しようと、その句の引用がある号を探していたら、とうとう見つからず、そのかわり、懐かしい内容の文章に出会え、これも縁だと思い直して引用する次第です。倉本朝世さんの句が出てきたり、長崎が出てきたりします。では。

  俗のほそみち(4) 

 空母ゆく億の水母をしたがえて  朝世

     「 NO  MARK」2号より

 やられた。やはり倉本朝世は一流の川柳書きである。しばらく休筆するといいながら、、競輪の予想紙記者の傍ら、ちゃんと句も書いていた。この句は川柳でありつつ現代俳句最先端ともクロスする。空母は巨大な体をもてあます軍事大国アメリカであり、そばに浮遊する数多のくらげは、一蓮托生の英国であり、日本であり韓国であり・・・というイメージが沸き起こる。しかし、それはむしろ二次的な解説でしかない。真の魅力は、空母と水母のシンクロにあるからだ。EVIL=悪がLIVE=生の逆文字であるかのように。そんな力を、この一見能天気な句は秘めている。

       ◇

栗提げて先生あたいを買いにくる 恭子
  電気ポットの夢ばかり見て   朝世

       ◇

 長崎原爆忌平和祈念俳句大会は私の生まれた昭和29年に始まったのか。丁度50回の年に初めて賞を戴いた。嬉しかった。しかし、

 原爆忌もつとも遠き黒鍵鳴る 恭子

もっとも遠き黒鍵とは何なのだろう。選句にけちをつけるのは横着なことだが、次の

 ヒトに生(あ)れ溢れし母乳原爆忌  
           福岡市 松尾久美子

なぜこんないい句に一点も入らぬのだ。選者には母親たちの号泣が聞えなかったのか。蛍になって帰る兵士だけが優遇されている。私は、死んだ赤ん坊を抱いたまま裸で仁王立ちし長い髪を逆立てた、この世のものとも思えぬ母親の姿を連想した。あるいは沖縄戦末期に、自決するより術なしと見た母たちがわが子に手をかけざるを得なかった悲劇を。

       ◇

 シベリアも戦もはるか星光る  
        佐世保  木原不二夫

       ◇

 ×月×日。朝。親類へあいさつに行く。長男がシベリアからかへつたのである。泊つてしまふ。秋蚕(蚕は正字)のそだつ音がしぐれのやうである。

 秋蚕はや繭に入るべき夜の星屑 

 繭の中もつめたき秋の夜あらむ

(詩誌「母音」8号、木下夕爾「日記抄」より)

      ◇

 戦争にがっしと襟首を摑まれてしまった。先日わが赴任夫に呼ばれ、熊本の菊池神社を訪ねる。資料館で見たいものがあるという。菊人形の菊池一族を横目で見つつ入館した。夫は何が見たかったのか、私は大変なものを見てしまう。秀野ノートを書いている時、心を寄せすぎたのかもしれぬ。出口で見たもの、それは松尾敬宇中佐の遺品であり、母刀自の歌であった。人間魚雷としてシドニー軍港で散華された、「軍神」の一人である。あれを見て、平気でいられる人があろうか。 

         (「九州俳句」133号より)

    平成16年2月15日発行

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コメント

松尾敬宇中佐、下記の絵葉書の解説書は私が書きました。
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Screen/3222/ehagaki3.htm

名前にもリンクしました。

さくらさん。いえ、神崎美恵子さま。
あっと声がでました。こういうお仕事をなさっていらしたのですか。あなたはすごい人ですね。

松尾敬宇中佐とご母堂の話は何回読んだことか。
でも、こういうはなしは、それこそだまっていなければいけない類の風潮があって、だれもしらないのでした。それを知ってほしくてこの文章をかきました。連句的にかきました。

えはがきの画家は松本武仁というお名前でした。

「作者松本武仁氏は、終戦時陸軍士官学校生徒でした。
もう少し戦争が長引いていたら特攻隊としての運命が待ちかまえていました。
従って特攻隊員として戦死された方への思いが非常に強く、長い間特攻の
絵を描き続けてこられました。
二度と戦争を起こしてはならないと、永久平和を願う作者の渾身込めた
絵画をご覧下さい。 」

という説明文があります。
絵は画家ですが、文はさくらさん。
しかし、画家自身が文をそえておられるものもある。

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