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2007年7月22日 (日)

現代俳句と女たち 8

 ― 現代俳句と女たち ―

 張形としての俳句  その八

           姫野 恭子

個人的な事を書く。昨年末に再就職した。
顧みれば私は専業主婦として四半世紀もの日を送ってきた。結婚後十年余の間に三人の子を授かり、家庭を守ることに必死であった。思えば偶然とは恐ろしいもので、三人目を授かったころに出合った俳句の力で、何とか今日まで生きのびて来られた気がする。
この四半世紀の変貌ぶりは、季語の「冷まじ」以上に凄まじく、魂を危うく持っていかれそうであった。気がつけばおもての繁栄ぶりとは裏腹に、内部はスカスカで何もない。見事なくらい何もないのである。

張形とは内部が空洞の陽物を指すが、女性俳句は”台所俳句”から解き放たれたのち、自ら”張形としての俳句”への道を歩んでいるように思えてならない。それがいい事か悪い事か、私は知らない。ただ虚子は一人静かに首を振るのであろう。

今回は、その台所俳句というものを学ぶ。
中村汀女の句をひもとくことにしたい。

 幼き日江津湖の塘にて盆踊りしぬ 五句
盆踊りやむとき塘は藻の匂ふ 汀女 

汀女の俳号は熊本の江津湖畔で育った清(すず)しい俳人にふさわしい。本名の破魔(はま)にしろ、浜に通ずるゆえ、中村汀女は水の匂いが濃い。この句の塘(とも)の字に注目してほしい。辞書にはない字である。堤のことをそう呼んだ。イメージ的に堤といえば池のようなものを、塘といえば艫(とも=船尾)を繋ぐ土手が浮かぶ。戦前の教育にあって今の私たちには喪れた豊饒な語彙を、例えようもなく惜しいと思う。

 今は熊本市だけれど、江津湖はやはり私にはもとの
 江津村がふさわしい。湖畔の人たちは、東遥かに
 阿蘇の山々を仰ぎつつ、田植、麦刈にいそしみ、その
 間に藻刈舟を浮かべ、夏に入る日は川祭の御神酒を
 湖に捧げる。私も朝夕湖を見て育った。走る魚の影も、
 水底の石の色も皆そらんじている。
 父母尚在ます江津湖畔に私の句想はいつも馳せてゆく

        (『汀女句集』 序)

   女一人を守りて春の舟行けり  汀女 

汀女は豊かな家で育ち、幸福な主婦としての一生を全うした女性俳人である。ホトトギスの高浜虚子からは星野立子と共に目をかけられ、いかにも良妻賢母型の雰囲気をまとう華やかな人であったようだ。時代的に石橋秀野より一回り上の世代に属する。この女流俳人のあけぼの期の女たちは、みな、社会的に裕福で(乳母に育てられた人が多い)、しかしながら世間的には苦労の多い生涯を送った人が多いのだが、汀女は、順境を順境として渡り切った類まれなる俳人であった。この事は決してたやすいことではなかったはずだ。

 なでしこや人をたのまぬ世すごしに  汀女
 初富士にかくすべき身もなかりけり
 外にも出よふるるばかりに春の月
 秋雨の瓦斯が飛びつく燐寸かな

 (これは、星野石雀、浅沼璞の両氏が偶然「ガスの生活史」の中で揃って挙げられた名句である。)
 
霜柱愛でゐることは踏めること
 夫と子をふつつり忘れ懐手

中村汀女は懐手の似合うハンサムな婦人だった。 

超結社俳句誌「九州俳句」146号より引用
  平成19年5月15日発行
   (北九州市八幡西区・中村重義編集発行)

※「ガスの生活史」・・・「連句誌れぎおん」(神戸市、前田圭衛子編集発行俳諧誌)でのアンケート特集記事。おおざっぱに日本の歴史をくくると、火をつかう生活は、ガスを得ることで近代を獲得した。その端境期を生きた証人である私たちは、記憶のなかから抜け落ちたがる貴重な前近代をしっかりと刻んでおかねばならない・・という意図のもと、れぎおんに集う俳諧人にアンケートを実施。それを前田編集長はていねいにまとめ、きっちりと誌面に記録された。だれも評価しないが、時の神様がおられ、俯瞰する目をもっておられるなら、これはすごい仕事であったとおもうだろう(笑)。ガス、厠、と二度もアンケート特集をさせていただいたことは、れぎおんとのつきあいにおいて、とても得がたい収穫だったと感謝しています。(ガスもトイレも昔の記憶は決して色褪せないものですね。)
 

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