無料ブログはココログ

« 農の小屋 | トップページ | 定点観測 »

2007年4月24日 (火)

松延寛之の小説 2

この文章をどの分類に入れるか考えましたが、芸能・アイドルというカテゴリーにとりあえず入れます。松延貫嵐の仕事といい、五木寛之の仕事といい、私には芸能であると思えたからですが、しかし、この処女小説を書き写しているうち、この人はやはり偉大な文学者であると思い直しました。

  

 連載小説   學生  第二回

              松延 寛之

野心

気まずい沈黙を破つて先生の声が響いた。

「お前達は何と馬鹿な奴等だ」

私の知つたことじゃない、前列のほんの二、三人のことに過ぎないのに、と絵美はくちびるをかむのである。ぢろりと目をやりながら、その顔にたたきつけるように先生はいう。

「この組は各自の点数の二分の一しか成績として認めない。何か異存が有るか」

「先生」と立ち上つたのは絵美だつた。あまりにも馬鹿げたことだと思う。どうして私まで点を引かれねばならないのか、と口惜しさで語尾がふるえた。

「先生、それはあんまりだと思います。私達この事件に全然無関係なんですもの。この組のほんの一部の人達の問題に過ぎないんぢやないかしら、それだのに・・・」

「もうよろしい」と先生はさえぎりながらたずねた。

「外の者の考えはどうか」

「先生」とたれかが立ち上つた。
絵美の横に座つていた例の生徒である。

「ぼくは全部が責任をおうべきだと思う」低くはあつたが、動かし難い何物かを感じさせる口調だつた。

「ぼく達の組で不正行為が行われたということは單に個人のみでの問題ではないと思う。不正行為を行うことを何とも思わないような乱れた空氣が組の中に祕んでいたからこそ、そんなことも起り得るのだ。少くともこのクラスで起つた行為については、われわれ全部が責任を負うべきぢやないだろうか」

「封建的だわ。今ごろそんな全体主義を振回すのは笑うべき時代錯誤よ。」

「個人主義だけぢや社会は成立しない。古いものが皆間違つていると思うのは戦後の日本人の欠点だと思う」

「全体主義こそ社会の敵ぢゃないかしら。一人一人の幸福の上にこそ社会生活は営まれるべきだわ」

「自分を殺して全体のためにつくさねばならない事もあるだろう。野球にしてもバレーにしても、君に言わすれば全体主義的精神を養う危険な競技になつてしまうぢやないか」

「そんな事は・・・」

「もうよろしい」と先生が言つた。

「不正行為が恥ずべき行為だ、という事が皆に解ればそれでいゝんだ。点数を引いた所で何になる。俺はそんな馬鹿ぢやない。」

絵美は何も言えなかつた。偉そうな事を言つても結局点数にこだわつていた自分の氣持を見すかされたようで恥かしかつた。皆黙つて筆を走らせていた。

負けた、と思う。しかし不思議にみじめな敗北感はわいて來ないのである。それに彼の飾り氣のないはつきりした口調にも何となく好感が持てた。いつか機会があつたらもう一度話して見たいと思つた。

雨はいつのまにか止んでいる。

生き返つたようなみずみずしい青葉のしげみから、「じいーつ」とさびた音をひヾかせて蝉の歌が湧いて來た。

次の放課後絵美は近くの川辺に出て爽やかな水の感触に浸つていた。

ここで終っています。つづくのでしょうが、ここまでしかありません。もう少し読んでみたいな。ロマンチックなんだけども、この年頃特有の、リクツっぽさと正義感とが押し合いへし合いしてる。それ、なつかしい。ほんとにそうだったですよね。

挿絵は、川辺の女学生がセーラー服で大きな岩に腰掛けて、足を水に浸しているというものです。ところで、私達の時代にはプールが高校にあったのですが、たぶん、五木さんの時代には矢部川かなんかで泳いでいたんじゃないでしょうか。うちの父は昭和四年、高塚生れの高塚育ちですが、学校の夏は矢部川で競泳があっていたといいます。んで、下帯(へこという)がだんだんはずれて、手で押さえながら必死で泳いだという話をよく聞かされました。昔はこういうところがのどかでよいなあとおもいますね。

五木寛之にしろ、黒木瞳にしろ、からだに自然が溶け込んでいるという感じがします。読んでいると、見えるようです。

※学校新聞ですから、地域の宣伝が載っています。これにも、「洋服屋カミヤ」福島町大正町、「月窓園」お土産用のケース入りアイスクリーム、福島町清水町、「金福堂書店」新刊・雑誌,迅速にお取り寄せ致します、福島京町・・と、なつかしい文字がうたれています。金福堂でよく教科書ガイドを買ったなあ!

« 農の小屋 | トップページ | 定点観測 »

コメント

へー、高校生でこういう小説。少し抑えて書いたのかな?
松延姓を五木にした理由なんかを知りたいです。恭子さん、教えてください。
まだ青春の門は読んでいないのです。4姉妹の話は読みました。ほとんど立ち読みで。彼のは『メルセデスの伝説』に感動しました。最近のは説教臭くて、でも、それなりに説得力あるし、講演での話も面白かったので、偏見を持たず読もうと思います。しかし、チボー家の人々も、魅せられ樽魂もジャンクリストフもまた読みたいと思いつつ、まだです。網膜剥離にならないようにして老後の楽しみ。そうか読めなくなったら、誰か読んでもらえばいいんだ。若い(いやそう若くてなくても良いんだけれど)ボランティアが、その頃いるはず!

わお。なんじゃーこりゃ。トラックバックこえー。
にたようなトラさんばかり勘弁してくれー

ももさん。五木寛之の苗字、私が想像するのでは、ごきぶりへの憧憬。ははは。いや、まったく知らんのじゃ。ゴキブリの歌、風に吹かれてがすきでした。「さかしまに」というのを読もうとおもいつつまだよんでない。青春の門は、よんだような気がする。でもひょっとすると映画の記憶だったかもしれません。
ももさん。黒い斑点がみえるというのは、こわいですね。疲れ目?飛蚊症とちがうのですか。検査したほうがいいですよ。眼圧とかも。

このあたりのせりふは、戦後すぐの頃映画「青い山脈」を彷彿とさせます。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 松延寛之の小説 2:

» 昭和 レトロ [昭和 レトロ ポップ(口コミ・評判を検証)]
昭和レトロポップなアイテム口コミ情報[昭和 なつかしい] [続きを読む]

« 農の小屋 | トップページ | 定点観測 »

最近のトラックバック

2020年7月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31