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2007年1月 6日 (土)

伊藤白潮 「卍」より 二句

去年最後に読んだ句集は伊藤白潮の『卍』でした。まだ全部は読みきれていない。分量もだけれど、語彙の多彩さが一筋縄では読めないようにしている。辞書を繰りつつ、楽しみながら味わう句集です。こういう本は最近少ないと思います。とてもユニークでリアリティに富んだ出だしの一句をご紹介しましょう。

 始動一発一月の浜を発つ   伊藤 白潮

第一章の「束脩」冒頭句にあたります。モーターボートのエンジンが一発でかかった喜び、爆音と小さな船体いっぱいに伝わる揺れが小気味いい。ボートのエンジンを起こしたことはありませんが、紐を「ひっぱる」式のエンジンのかけ方では農機具などがそうですから、イメージがよおく浮かびます。句集の冒頭句として申し分のない配置だと思いました。また、一月というずいぶんな季語もなんかいいかんじに自然です。数年前に読んだ紫微の会の歌仙「一月の」を思い出しました。これは名作(ことに出だしの三句)ですから、いつかご紹介いたします。では、そういうことで「束脩」とはなにか、ご自分でお調べくださいますように。

じつは、田中午次郎、つまり伊藤白潮の師についてなにか書こうとしたのですが、これがあまりよくはわからないのです。わかっているのは、石橋秀野の句集にその名が見えること、馬酔木と鶴の同人で秀野とは仲間だったことくらいです。昭和十八年と十九年の秀野の句に午次郎の名の前書をもつものが二つあります。一つは午次郎の応召への餞の句と思われる句、いまひとつは午次郎邸での供応の句です。

  午次郎さんへ(昭和18年)
 ぬかご飯妻子を離(か)るゝ箸ほそく   秀野

  田中午次郎氏居にて(昭和19年)
 親子して雉子鍋あつき没日かな     秀野

田中午次郎氏が鴫(しぎ)と言う名の俳句誌をおこされたのは昭和23年、すでに秀野は亡くなっていました。その鴫を引き継いでおられるのが他ならぬ伊藤白潮氏です。その方の句集を去年、山口の国文祭連句会に出席した折、山本伽具耶さんから戴きました。やっとゆっくり頁を繰り、あらためて縁のつながりのふしぎさに驚いているところです。伽具耶さん、ありがとう。なにか重要なメッセージをもらったきぶんです。

はじめに書いたように、全部はまだ読めていません。しかし、心に残る句をいまひとつ引いておきます。

 豚小屋のにほひ切なし初社   伊藤 白潮

昭和三十年代終り頃から四十年代初め頃、わが家にも豚を飼っていたことがあり、鮮やかにその光景を匂いとして思い出しました。たしかにあれは切ない匂いです。去勢の赤チンキの匂いであり、消毒液のにおいであり、清潔好きな豚の独特の餌の臭気であり、何ともいえぬものでした。なぜ豚がいたのかといいますと、ちょっと流行ったのだということです。でも難しかったらしくあっという間に記憶からいなくなりました。この句を読んで、そういう昭和のなつかしい時代を思い出すとともに、季語の初社がなんとも可笑しく、神社はたいてい人里はなれたところにあるけれど、豚舎も匂いゆえにたまたま近くにあるのかなあと考えさせられる広がりをもつ句です。(私のところの郷社=地域で一番格式が高い神社=もそういえば、豚ならぬ牛舎の近くにあるため、夏場などハエがすごいです。)

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コメント

「伊藤白潮」検索で一位になってました。
この俳人はたくさん優れた句を書かれています。
句集をくれた山本伽具耶さんはお元気でしょうか。
いつかまた八女に連句をしにいらっしゃいね。
沢都さんも元気になったし、その節にはまこと忌の追善歌仙をみんなでまきたいものです。

ここ、伊藤白潮の豚の句の紹介で、ついでにご紹介してくださってました。↓ほんとにどうもありがとうございます。伊藤白潮、すばらしい俳人。
かぐやさん、こんど九月の合宿に案内しますね。
久しぶりに会いたいね。
連句、まこうよ。

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