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2006年10月 2日 (月)

月の座

俳諧歌仙36句のなかには、花の座が二つと月の座が三つあります。
歌仙一巻のなかで大事とされるのは、この五つの座と、ほかに恋、無常、神祇、釈教の句です。芭蕉さばきの歌仙では釈教の句を芭蕉自身が詠んでいることが多いことを思うと、仏事をとても大事におもっていたことがわかります。

花と月がなぜこうも大事に歌われてきたのか、それはうつつと夢幻にまたがる象徴的なものだからだと思うものです。先日筑後地方に天文年間から伝わる氷室の歌を紹介しました。よく意味がつかめない歌です。春秋を分か(け)るはかりか松かさき。これがその上半身。マツがなぜ重要なのかはお能の影向の松(ようごうのまつ)でも象徴的なように、この世とあの世とを隔てる仕切りとしてのメタファーだからです。であれば、あの読めそうで読めない歌のこころも先日読んでみたとおりでいいんじゃないかなあと思うものです。陰暦においては、月、太陰中心ですし、時空間が一致します。方角と時間が重なる。その仕切りは、秤は、松がさきだということばのしゃれ。

さて、月です。歌仙では三箇所に月をあげる。月といえば秋の代表的季題ですから、当然秋の月なのですが、三箇所あるうちの一箇所は別の季節の月でもいいことになっています。そして、長句で三つともそろえずとも、一つは短句があってもかまわない。中には二つ短句で月を出している芭蕉の歌仙もありますが、それはまれです。

きのう、ばどさんの月見草の句を月の座にとってしまいました。しかも前句にねじばながあります。草に草でつけた。月本体じゃなく、月の字の入った草を。式目的には幾重にも難問が重なる句を選んだものです。おなじようなのがないか、見てみました。芭蕉七部集。すると、月はちがうけど、ちょっと似たかんじで前句と同じ草が続けて出ているのを見つけました。ひきます。

灰汁桶の巻(猿蓑、去来・凡兆編集、芭蕉監、元禄年間)。

ナオ 五 すさまじき女の知恵もはかなくて   去来
    六   何おもひ草狼のなく        野水
    七 夕月夜岡の萱ねの御廟守る     芭蕉

これは秋の月です。ですが、おもい草に萱ね(かやね・すすきなどのかやくさに寝ると根方を想像させることば)でつけている。これは縁語なのでしょう。おもい草、しのぶ草。恋句であります。芭蕉がやはり無常、釈教の句、そして恋もかねている句をだしています。ほんとうに芭蕉は恋がうまいなあ。「娘を堅う人にあはせぬ」(「梅が香に」の巻)なんて、天才的だとおもうもの。たったこんだけの文字で、厳格な父親と箱入りの大事な娘とのきっちりとした愛情が伝わるものね。

参照)

おもひ草:http://www2.odn.ne.jp/cbm54970/nanbangiseru.html
しのぶ草・わすれ草・萱:http://www.asahi-net.or.jp/~zz8k-tmng/plants/sinobu.html

梅が香にの巻 (炭俵、野坡他二人越後屋手代の選、元禄)
ウラ 
一  御頭(おかしら)へ菊もらはるるめいわくさ  野坡
二    娘を堅(かと)う人にあはせぬ       芭蕉
三  奈良がよひおなじつらなる細基手(ほそもとで)野坡  
  

と、それはおくとして。私は『連句辞典』を探しているんですが、どこかへいってしまって不明です。知りたいのは、雑で月を出すとき、どんなコトバがあるのか。(そもそも雑の月ってあったっけ。わすれちゃったよ。)娥眉、西王母、桂男、玉兎などの月の異名は杉浦先生のご指摘のように、秋の月なんです。でも、たとえばそれを絵に描くとか、あるいは音楽のムーンリバーとか、はたまたpaper moon とかできないこともないけど、ものすごくくどくなる。ばどさんが書かれていたように、月に本来特定の季節はないと思いたい。けれども俳諧では月とかけば、すぐさま秋の季語と特定されます。だから、とてもむづかしい。かなり考えましたが、私の貧弱な頭脳では解決できず、ばどさんのドアを朝の月に変えさせていただきました。せいいっぱいやりましたが、すみませんでした。これで勘弁してください。また、なにか代案があればどうぞおっしゃってください。  

 学歴とか家柄とか太腿とか       蛉 ・恋
  文字摺草のねぢれをとけば      聰子 夏・恋
 朝の月あなたが置いた月見草    bud 夏月・恋

杉浦先生、これでよろしいでしょうか。夜おそくなってしまってすみません。ではよろしくおねがいいたします。

月見草:http://www23.big.or.jp/~lereve/saijiki/167.html

月は、形而上だとつくづくおもった。たましひの世界。

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