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2006年10月23日 (月)

天真実句集『光』

片付け物をしていたら、バインダーに挟まれた西日本新聞の俳句月評が出てきて、今は亡き城門次人先生が書かれた、天真実句集『光』の紹介文が載っていた。平成12年10月の月評。

 すいか食う私の腹もすいかなり   天 真実
        (句集・光・八女句会手造り)
 経本にならって作られた和綴じ本の中に、よく似合う一句ではないか。邪気のない無心そのものの作者十七歳がかがやいている。句は、「樹」四年足らずの作品と連句少々。(城門次人)

パソコン机の横の書架にいつも置いている『光』を、ひさしぶりに手にとる。まことくんが句稿を持って我が家にうれしそうにやってきたときの表情が、いまも目に鮮やかによみがえる。天真実という輝ける俳号も、その作品も、天の光に充ちていた。あのころの彼は、一つの奇跡であった。いくつか凡人には書けぬ句がある。ご紹介したい。

 冬の句

 初夢や笑い話で肘枕
 元旦や弟さわぐカルタとり
  先輩の最後を飾るユニフォーム
 堤にて公魚つりし夜明け前
 初氷夢見る想い通り道

 春の句

 折鶴が羽ばたいて行く春の空
  散る桜岡城登りて里思う
 春の鳥祖母のかたみの古タンス
 学校へ戻る日泣いたあまがえる
 春の雪流す雨なり人に愛

 夏の句

 赤い糸負けずに引けよ兜虫
 落雷や仏は驚く我走る
  豊後よりはじまる緑夏の色
 夏初やぶれホースに水しぶき
 夏の風高原なびく空の下
 夕焼けや写真に撮す人の影
 校庭の暑さを受けて演劇部
  ビリヤード父と男の汗流す
  片思い電話かかりて紅の花
 夕立や期末試験もあと一日
 夏草や踏んで踏まれてなお生きる
 海の底今なお呻くさとうきび  (沖縄修学旅行)

  秋の句

 すいとんの匂いただよう寮の秋
 秋深し詩吟聞こえし岡城址
   夕月夜影を残してカメラマン  (貞永まこと氏)
 行く秋に思い出いっぱい空青し
  口笛の悲しき音色秋の宵

  連句

 歌仙『花嵐』の巻き    
首  平成十二年四月二十一日 尾 六月二十八日
         連衆 八女句会   捌  姫野 恭子

 嬰児(みどりご)のバイバイ棚田の風光る  瀧 春樹
      ぽつんと残るげんげんの束         姫野恭子
 浅蜊貝ネコの皿にも入れられて        横山 晶
   帛紗(ふくさ)さばきの見事なること    天野おとめ
 しんしんと月の言葉が降りつもり        山下整子
   風の深きに柿熟したる           沢 都
ウラ
 おくんちの爆竹に火を点ける時        おとめ
       ネイルアートに描く渦巻き         おとめ
 囲われの身と嘆きつつ屏風岩          晶
    隣はいつも空っぽのまま         都
 レジュメには宝の位置が書かれてた    整子
   ウージの森でシーサー踊る        天 真実
  夜神楽を両手広げて抱く月          おとめ
       洗濯物を凍らせるとは          晶
  休息日介護ロボット夢に見て        小梅わこ
   川の向うのIC 工場            整子
  花嵐どの木箱にも蓋がない         春樹
       ただ暖かな雨の匂える         恭子
 ナオ
 遠足の列に野良犬伴走し         整子
      置いてけぼりの前衛の旗      おとめ
 ジャグラーが彩なす円に水しぶき    晶
      さっと眦染まるまぶしさ         恭子
 「待っててねここであしたも待っててね」  わこ
   空中楼閣 真夏の花火         整子
 どこまでも果てなく続く雲の峰      晶
    荷物かつぎて行商の婆        おとめ
 生きてればきっと漁師になっていた   恭子
   勲章ひとつ永久に讃えん        わこ
  あわもりはクースに限る九月尽     整子
  良夜の影は畳の上に         晶
    ナウ
 稲刈りの音かしましき田舎道       真実
   お山の猿も栗待ちかねつ       おとめ
 青い海ホームに見つけた祖父と祖母   わこ
   まずは一服長いキセルで        都
 褪せもせずあの時の花いま散りぬ     晶
   汝が顔(かんばせ)を埋め尽くす蝶    恭子

※ げんげん:蓮華草
  天 真実17歳 、小梅 わこ 16歳。 

 十八歳で第一句集「光」の上梓、まづは祝意を捧げます。
その想いを妙に屈折させずに結果として刊行してしまった勢いに脱帽です。
長いこと俳句まみれになっていると、知らぬ間に”俳句巧者”になり果て、予定調和の花園に落ち込みやすくなってくるものですが、この句集は揺れうごき、一瞬もじっとしていない少年の直情に彩られています。天真実の句を無条件に褒めたことは殆どありませんが、打算という掛け値の無い、真正面からの吐瀉に充ちている分だけ、明らかに甘く、こなれていない句と凄味あふれる句が、それぞれ浮き沈みしつつ漂流しているのが、「光」の正像と云えます。喘ぎ、模索する若々しい力量であるが故に、逆に自らに課題を突きつけてもいましょうが、出帆してしまった船は熱い眼差しで見送れば良いのです。

      2000年8月18日   貞永まこと

天 真実(てん まこと) 昭和57年9月11日生れ
  刊行時、大分の全寮制高校を卒業したばかりだった。
  瀧春樹「樹」に平成8年から15年まで在籍。
  俳句は中二くらいから始め、連句はこの年からだったと記憶する。
  八女市出身。母は天野おとめ。
  (天野おとめは現在、役所の教育相談員である。)

      
   

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