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2006年10月 6日 (金)

砂の器

丹波哲郎さんが亡くなった。映画おたくといってもいい、一回り年少のおともだち、マリオットの盲点のあっさむさんのブログで、彼が「砂の器」に出ていたことを知る。ずいぶんむかしの映画だし、記憶のなかでは寒そうな海べりを、巡礼姿の貧しい父子がさすらっているシーンと、主演加藤剛のいかにも正統派ハンサムってかんじのワガエイリョウ像が残っていただけだった。だから、えっ丹波哲郎とか出てたっけ、とおもった。公開当時19そこそこの私は、なにも見ていなかったし、みえていなかったなあ。

去年、スマップの中居くん主役のテレビドラマで見た「砂の器」は、平和時の厳しい言論統制により、もっとも肝心な殺人にいたる動機を解く鍵であることばが、とうとう最後まで発せられず、これはいったいなに・・とことばをなくしてしまった。しかも、だれもそれに異を唱えないので、だんだんおそろしくてたまらなくなり、連句の同人誌にそのことを書かずにおれなかったくらいだ。ちょうど映画の字幕を翻訳するのが生業のひとが、そのあまりの言論封殺の厳しさに音をあげている文章を西日本新聞で読んだのもある。そのひとは、ドストエフスキーの「白痴」までさしかえよといわれた日には、こんな仕事やめてやる!という決意すらつづっておられた。(さすがにそこまではいかなかったようだが)。そういう文章を読むまで、あるいは中居版「砂の器」を見るまで、言論統制が厳しさを増していたことに気づかなかった。

さて、昨晩「砂の器」(昭和49年野村芳太郎監督)のデジタル版を一人深夜にみた。
場面の一こま一こまが、まさに連句的モンタージュ技法でつながり、気迫みなぎる画面構成に強い感動をうけた。丹波哲郎はもっとも出番の多い今西刑事役だった。そのこばんざめが森田健作。紙ふぶきの女を追って、線路の周辺をしらみつぶしに猟犬のごとく探し、血のついた布のワンピースを発見する役。ものがたりのなかで、印象に強く刻まれるのは、ことばをひとことも発しないで流される主人公の回想シーン。三十年たっても忘れることがなかった寒そうな海べりの場面は、竜飛岬だということを、今回のdvd版の特別付録で知った。

それぞれの裏方の強い個性とこだわりがぶつかりあって、あのような美しくも悲しい激しい真実のドラマが出来上がったのだと知る。一例では、オーケストラを使うシーンを一回撮れば、百万かかったそうで、それなのに、映像担当者は満足できず、も一度撮りなおしたという。あるいは、ひでおのやまいの父を馬車に曳かせたリヤカーで病院へ運ぶ、父子別れの胸をしめつけられる場面。あそこにどんな音をかぶせるか、効果班の一技師が二晩も徹夜して、馬が砂を蹴散らす音まできっちりていねいに音を拾ったのにもかかわらず、デモテープを二種類聴いた監督が、効果音ナシの音楽だけの映像でいくと決定。効果技師の苦労が報われなかった無念も、すべてあの映画には入っているというはなし。

そして、連句人の私がもっとも感銘を受けたのが、日本の四季の美しさを織り込みたかったという映像人の執念である。冬の雪、春の花(さくら)、秋の紅葉。夏のクーラーなどない刑事部屋の汗。日本にうまれるとは、こういうことなんだと、映像自身ががものを熱く語ってくれる。

らいの父が唯一はっする息子への愛情あることばが、そんなやつ知らない!という悲鳴にも似た否定のせりふである残酷さ。まっしろな障子の獄のなかから、車椅子の父が看護婦に運ばれてくる。そのときの加藤嘉、名演であった。すばらしかった。

加藤嘉:http://web2.kjps.net/~mn4812/katoyosi.htm

このひとの経歴をみますと、反戦思想にかたむき・・とある。ああ、石橋秀野の文化学院時代の同級生に、反戦映像監督の亀井文夫がいたなあ。と思い出した。文化学院は当時のおかねもちの子弟がいく、文化的に最先端の思想も最先端の、もともとは資産家西村伊作が自分のこどものために作った学校だったのだが、秀野はそこへ少女時代から通う、大学は共学で、集合写真に亀井文夫と秀野が一座して写っている写真がある。そうそう、眞鍋呉夫先生も文化学院を出ておられました。八女の郷土史家杉山洋さんは亀井文夫と秀野の関係を調べておられて、秀野の家が没落して、学費が払えなくなったとき、亀井文夫が学費を援助してくれたという一件をどこからか取材してこられました。私が調べたはなしではありませんので、詳しいことはわからないのですが、健吉とであうまえに、亀井さんと恋愛があったのかどうか。わからないけど、物語的には、あってほしい。だって、その亀井文夫というひとをちょっと調べましたが、ひよわなおぼっちゃんにみえて、気骨のある映像人として、お蔵入りになったけれども、反戦映画をあの時代に撮っていたようですから。そういう勇気ある男、いかにも秀野がこころをひかれそうなタイプとおもうから。

亀井文夫:http://www.yidff.jp/news/01/010807-2.html

と、こういうふうに、私のはなしはすぐ、石橋秀野につながっていきますね。笑

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コメント

こんばんは。とうとうオタクにされてしまいました(笑)。とにかくこの映画は「力強さ」が印象に残りましたね。残念ながら亀井文夫という方は存じませんでした。

懐かしい映画です。私は見るたびに泣いてしまうけど。あの時代にらいを描き得たこと自体もすごいと思う。やっぱり現代の状況を背景に描くのは無理があるよね。あまりいい意味ではないけれど、ある種のノスタルジーを感じさせる映画だと思う。

あっさむさんおのださん。
と、連名で呼んだのは、寺つながりだからですが。連句分類では釈教なかまなのだよきみたちは。全然かんけいないけど。笑
斧田さんひさしぶりじゃのう。元気でしたか。おひっこし、大変だったでしょう。落ち着いたみたいですね。
砂の器、あらためて今見れてよかったです。どこを見るか、その視線が前と違っていて、年をとるのもいいもんだなと思った。意外だったのが緒方拳。なんだか浮ついた感じで。そういう時期だったんだろうね。テレビの中居くんのもよかったんだよね。私は、あのドラマでずっと泣いてた佐賀出身の松雪泰子がすきだったなあ。
それと「宿命」という曲はどっちが好き。芥川さんのも千住さんのも両方よかったね。

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