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2006年9月16日 (土)

切字論、川本皓嗣 4-1

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 和歌の切字というものは別として、連歌の切字に関するくわしい議論は、南北朝時代の二条良基に端を発し、救済、宗砌(そうぜい)、心敬らを経て、『専順法限之詞秘之事(せんじゅんほうげんのことばひのこと)』(写本、専順著か。専順は室町から戦国時代にかけての連歌師)に至って、その形を整えたという。専順の「発句切字十八之事」は、伝宗祇の「白髪集」に受け継がれたが、その後、時代を下るにつれて、切字の数はだんだん増えていく傾向を示す。

 専順のいう十八の切字を品詞別にまとめると、「かな」「もかな(もがな)」「か」「よ」「そ(ぞ)」「や」が助詞、「けり」「らむ(らん)」「す(ず)」「つ」「ぬ」「じ」が助動詞である。しかし一方、「し」は形容詞終止形の語尾(青)、そして「せ」「れ」「へ」「け」は、いずれも動詞命令形の語尾(尽く、氷、散りそ、吹)にすぎない。そして「に」も、助詞ではなく「いかに」の「に」、つまり疑問の副詞の語尾である。

 今日の目から見れば、あまり分類の統一がとれているとはいえないが、用例に照らせば意図は明らかである。また動詞命令形の語尾ならば、この四つの他にいくらもあるが(立、歩、往)、もっとも頻度の多いもの四つに代表させた形だろう。言うまでもないが、この十八字はいつでも切字になるわけではなく、用法や位置によって、そうならないこともある。またこうした「てには」以外に、名詞を切字のように用いることもできるが、近代以前には、それを切字とは呼んでいない。

 ここには、いくつかの問題がある。まず浅野氏は、芭蕉の「蕣(あさがほ)昼は錠(ぢやう)おろす門(もん)の垣」に見られるような、詠嘆の間投助詞「や」を切字と認めるが、

  物ごとに道あらたまるけふの春   晶叱(しょうしつ)

のように、疑問の意をもつ係助詞の「や」は、切字ではないとする。というのはむろん、「道や」の直後に大きな意味の切れ目がなく、「や」の係り結びによって、「あらたまる」までそのまま文が続いていくからである。だから、この句は「例としても適切でなく、この例をあげた切字観もおだやかでない」という。この句例は江戸時代の『暁山集(ぎょうざんしゅう)』(元禄一三、1700)から引かれたものだが、ただここでふしぎなのは、伝専順の『詞秘之事』や編者未詳の『白髪集』でもやはり、「や」の用例の代表として、わざわざ係助詞と見えるような句(「露や色花の木ぬれの朝ぼらけ」。二書に小異あり)が挙げられていることである。そして『白髪集』の切字解説の部分にも、「や。うたかひの詞」と記されている。

 「や」については、伝統的に「七つのや」と呼ばれる詳細な分類が行われているが、『白髪集』の解説には、この「疑utagaiのや」のほか、同様に係助詞に類するいくつかの「や」が、例句とともに列記されている。むろん、浅野氏が認める詠嘆の間投助詞に当たりそうな「切kiruや」も挙がっているが、これについても、「うたかひものにもかよふべし。又知らぬにも似たり」とあるのが注意をひく。つまり詠嘆の「や」にさえも、係助詞のような疑問の語気を感じ取っているらしい。(4-2につづく。)

※ ここを入力中、芭蕉の句、「蕣(あさがほ)や昼は錠おろす門の垣」に、石橋秀野がにおいづけのようにして詠んでいる句をおもった。昭和16年「菖蒲湯へ罷りし留守のかどの錠」「朝顔の咲き放題にいつも留守」。ほかにも秀野の句には芭蕉の句と蕪村の句の面影がある句がいくつもあり、夫の山本健吉の影響もあったんだろうなあと思ったりする。純粋な古典の血統をまっすぐにひく魅力。それが俳人石橋秀野の最大の魅力である。

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コメント

えめさん、みなさん。ここです。
すんげえむずかしそうだけど、一度目を通してみてください。きっと何かがうんと開けます。視界。
ただ、字が小さいので、倍率1、5倍でどうぞ。
今日書いていたことで、どなたかが、ここよとばかり、「七つのや」検索でここを指し示してくださいました。おかげでものすごく手間がはぶけました。
川本浩嗣先生、ありがとうございます。

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