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2006年8月 8日 (火)

さぁ帰還

 大量の男根積んでさぁ帰還   渡辺隆夫

いただきものの句集がたまってきました。少しずつ全部ご紹介いたす所存でございます。まずは、昨日いただいたばかりの川柳句集から。

『川柳 黄泉蛙』渡辺隆夫著ー蒼天社刊より。

 核家族から核を接収する国家

 拉致拉麺脱北レーメン夜鳴き蕎麦 

 ラーメンとイケメンの相互不可侵

 流木を神と見るか世紀と見るか

 府せの流木は脱北者だと思う(府せで俯せと読めるのか?)

 ミナミのママが脱北の仕掛人

 仰向けの流木はママだと思う

この流れるような句のでかた。スピード感があって、疾走感があって、作者本人も読んでるわたくしも、すこしもものをおもわざるままに、句の雌伏を私腹を至福を感受し、意味より先にそのリズム感をきもちの良いものとして受け取る。

 国思う禁止の煙草吸いながら

 へリ飛来フトンを叩くこと一分(芭蕉の面影が一秒)

 ベランダマンをパンパン叩く隣の嫁

 飛行機のように電車も突っ込んだ

 煎餅のような遺体だナンマイダ

毒で切り込み遺族の感情や加害者の痛みにはこれっぽっちの配慮もしておらぬ。そこがまさにその一点が、川柳人の気骨である。わたくしはこれを読んでここにいちばん感動をおぼえた。これをやりおおせるには、なんて偉大な勇気とど根性がひつようなことか。

これは由緒正しきオッサンのラップである。

冒頭に置いた句だが、最初思い込みのはげしい俳人は「大根」だとばっかりてっきり読んでた。何でまた大根をーと思ってよくみたら、男根だった。笑

自衛隊の帰還のことでありますね。それをこういうふうに詠む芸は、さすが川柳家だと思う。

「水際に兵器性器の夥し」(作者名どわすれしました。ごめんなさい。) という、有名な無季俳句と並びおかれることで、その位置を不動のものとする川柳だと思いました。この句の延長線上には、なぜかロボットによる代理戦争までが連想され包含され、わらいのあと、暗澹たるきもちになります。

鹿又英一の連句的序文、繊細で詩的な吉田健治の跋、が川柳の読み方がわからないものにも丁寧な解説となっている。じっさい吉田健治の跋を読み、同じ作者の前作「亀れおん」を引っ張り出してきて、松林尚志の序文を改めて読んだりしました。

 憚りながら母は早メシ  隆夫

 母なくして水母空母は生まれない    隆夫

 (空母ゆく億の水母を従えて  倉本朝世)

 お夏オナニー清十郎はせんずれり  隆夫

 バネが発情してどうするんだ    隆夫

 (死んだこころをどうするんだ忘れたふりして覚えてんだろ えーっとだれだっけ。歌のカシなんだよね)

はばかりながらの母句ですが、トイレに座ってまでメシをかっくらってるせわしないおっかさんが浮かびませんか。それでちゃんと頭韻まで踏んどるからすごい無意識の芸。阿頼耶識の域にとうたつしておる。それと、これだけは書いとかなきゃ。この私でさえ引用をはばかるような卑猥な俗語をたんまり使った句がいくつかあって、ちょっとうれしい。昔はけっこうあったよねえ。今はみんなお上品になって、そういうスラングは絶滅してしまったけど、まだあるんだ。この間うちの田植えのとき、通りかかった隣村のファットなおっちゃんが、忘れたけどとびきり卑猥な冗談を言って自分で受けていたのを見て、「おおまだこんなんがおるんかー」とひそかにこころがふるえたのでした。えろいことばって、人を怒らせるだけじゃない、元気にするね。それと、引用句の「せんずれり」ということばは、こどもが小さかったころバスに乗ってて、その落書きを見て大きな声で「おかあさん、ねえねえせんずりってなあん」って。静かな車内が一瞬凍りついたのはいうまでもない。そんだけ威力があるってことは、原始的な力がそこにあるってことで、そういうのを非難にひるむことなく書くとこに、わたなべさんの真のえらさがあるとおもいました。

 手を振って落ちてくるのはお父さん   隆夫

 お父さんはお母さんだった    隆夫

  ぼくはただ水に映った父と母   野間幸恵(句集「WOMAN」所収)

ここまでくれば、哲学的で深い森です。でも、いいたいことは、確実につたわります。

著者紹介:渡辺隆夫 1937年愛媛県うまれ 1995年第一句集、1998第二、2002第三、2005「渡辺隆夫集」発行。神奈川県在住。

 

 

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コメント

渡辺さん、お元気なようですね。一度だけお会いしたことがありますが、作風とあまりに違う温厚そうな紳士でちょっとびっくり。作品はまだまだ健在ですね。

斧田さん。コメントどうもありがとう。そうか、川柳家だよね、おのださんは。笑
わたなべさんがどんな御仁か存じ上げないんでありますが、おもしろかった。川柳の句集で笑ったの、ひさしぶりだった。

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