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2006年8月10日 (木)

中村マサコ句画集『風の骨・・』

  句画集『風の骨ときどきささりあちこちささり』(星雲社)

        俳句・短歌  中村  マサコ

        絵       山下 達也

                 楯  宏子

これはまた小さくてとてもうつくしい。

こんどは短歌をみていこう。

  車掌まで同じ訛の小さきバス麥の熟れたる村路を走る

  垂れし髪に吸われてつぎつぎに消えし雪われに棲みいるつね冬の人

  そばかすだらけの晩年もよし白と名づくものへの憎悪ながくて

  曇天へカラカラと嘲い去った巨鳥のこと白痴の少女のよくする噺

  疲れやすく片目をすぐにあかくする青空犯しビルふえる日々

  放ちやりし小禽とらえんと空に開く鏡は蒼き空をうつして

  ヘッドライトに曝されて絶つ傷口を舐めいるごとしと指摘されしよ

  複数への葬送曲は奏でられる茶房の隅でのしずかなる喪あけ

  吾の愛にかかわりもなく降りてくる風荒き日のあかき壁土

  歩幅のろきを振り返りては待ちくれしあなたも富士もさようなら

ちょうど十句、これだけだ。これらのうたにある繊細でしぜんな「うたをたくらむこころ」。それは作為というにはおおげさすぎる。白秋の感覚に通じるものがはっきりみてとれるのが、まず片目をあかくするうた。壁土のうた。白痴の少女のうた。白を遠ざけ恋うるうた。きづくのは、このころの作者にはまだ季語への目は開かれていなかったことだ。若き日の習作だという。・・わたくしには、しるすべきことばがない。だけどもなにかをまだここに書きたい。白秋の短歌をしるしたい。手元に久留米図書館で借りたものがある。

  おのづからうらさびしくぞなりにける稗草の穂のそよぐを見れば

  父の背に石鹸(シヤボン)つけつつ母のこと吾が訊いてゐる月夜こほろぎ

  夕されば閻浮檀金(えんぶだこん)の木の光またかうかうとよろめきにけり

  蛙(かはず)鳴くくらき水田の夕澱(をど)み電柱に沿ひて月のぼる見ゆ

  唐辛子花咲く頃やほのぼのと炎天の畝に歪(ひず)む人かげ

中村マサコの若き日の短歌作品が、まっすぐその後の俳句作品へとつながっていく、その芯にあるもの、自然への同化。というよりは、自分のなかの野生をたしかめたしかめして、ことばをつむぎだす作業をしなければおれなかった。それは白秋のもつ野生とおなじものだ。

さて、この小さな愛らしい本には、数枚の絵が掲げられていて、その絵を描いた人の一人をわたくしは知っていると思った。楯宏子さん。たしか、十年ちかく前、博多へ、西宮は甲子園の前田圭衛子先生が連句を指導にみえたとき、一度だけ同座したことがある。俳人はるのみなとさんのご紹介だった。藤崎の神社近くの西公民館だったと記憶する。(ほかには鍬塚さとこさんや森山光章さん、貞永まことさんがいらしたかもしれない。)まさに句の感性も絵と同じく澄明でロマンティックだった。詩的だった。・・でも知らなかったなあ。画家だってこと。中村マサコ氏とも一度、八女の堺屋で連句を巻いたっけ。あさよさんとは結構、ファックス文音で巻かせてもらったから、旧知の人みたいに感じていたけど、まだ一度しか会ったことはないのであった。(私的なことですが、岐阜の斧田さんとも、まだ会ってはいなくて、一度お会いしたいとずっと思っている。)

もう一人の画家は、紹介をみると、もう亡くなっている。54歳ほどで亡くなった坂本繁二郎の弟子である。「言葉ありき」「樹からのことづて」「喉より水仙花」の三作が収められている。「樹からのことづて」は繁二郎の色彩を連想させる。喉より水仙花ーこのタイトル。抽象性がたかく、みていて、ちょっと苦しい。重い。色調が、ついこのあいだ見てきた伊藤若冲の最晩年の鷹と松の図のように、簡素である。そういえば、この土の色、アースカラーは、昨日とりあげたもう一冊の『左手の約束』表紙の写真とも通う。あれは、装丁家の高橋善丸氏がご自宅の庭にできたひびわれを面白く感じられて、写真にとられたものだという。

こういうひびきあいにきづくと、おのずと縁のかさなりあいがみえてきて、句集を一冊だすことのシンフォニー的意味合いが、うれしく、ここにあらためて祝辞を申し述べたくなった。

はじめての句集出版、二冊も、おめでとうございます。みんなから祝福されて、お人柄がしのばれます。わたくしのようなものにまで、ありがとうございました。

最後に、引用をはばかった句がひとつあって、それは以前、連衆誌で見たときから、わたくしのなかで強い忌避感がある句なのだが、今回もとうとうここにとる気になりませんでした。お許しください。

  

  

                               

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