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2006年8月14日 (月)

張形としての俳句(その五)

 現代俳句と女たちー張形としての俳句(その五)

      九州俳句誌143号(平成18年夏号)掲載

                  姫野 恭子

 昭和三十年六月、滋賀県琵琶湖北、今津町にて夫二児と別る。―

 山田みづえ第一句集『忘』の書き出しだ。はや十年近く前にもなろうか。石橋秀野顕彰俳句大会が八女で興行された折、八人の選者の一人として東京からおいでになり、講演をなさったのを昨日の事のように思い出す。

 山田孝雄(よしお)という国文学の泰斗を父に持つこの俳人は、小柄ながらも背すじをしゃんと伸ばし、まず御自分の俳句の出発点から隠す事なく語り出された。強い響きの声であった。

 私は子ども二人を婚家にのこして夫と離縁しました。そのことが自分を俳句へと向かわせました。師石田波郷から「秀野を書けるのはあんたしかいない」と言われ、秀野の句に横っ面を張られるような衝撃を受けて、書いたんです、石橋秀野論。―

  生きて秀野に逢ひたし風の吾亦紅   みづえ

 死を前にした秀野の二十句余りの作品が放つ一分の隙もない生の輝き。それに魅せられた者は、なまなかな覚悟では句に対(むか)えなくなる。

  ふくろふの眼ひらく音や雪の檻   みづえ

  底冷となる憎しみや火を落す    〃

  雪卍うたてや子らを置き去るか   〃

  荒梅雨や抱きて噎ぶ膝頭     〃

  夏袴父をいたはる母羨(とも)し     〃

  野分すや鏡中に放つ泪顔     〃

 『忘』の序文は波郷が寄せている。

  「よく表現が大切か内容が大切かといふことが論じられる。本来不可分で、いづれをより大切とすることはできないが、俳句は強いて何れをといへば、私は表現と答へたい。」

      (序  昭和四十年  石田波郷)

 そうして、次の二句を採り、俳句表現の面白さは散文訳できるものではないとも説く。

  麦こがし煩ことごとく噎せかへる  みづえ

  「雨(あめかんむり)」のごと時雨来るなり坂の上 

 山田みづえの句は、石橋秀野の毅然とした韻律を更に厳しく調律した印象で、女らしい華やぎや色を放つ事を自らに固く禁じているのが見える。「煩ことごとく」の煩(はん)など漢語を遣ったり、初めて目にするような語が混じっている句を読むと、辞書を編むのを生業とする家に生い立った作者の負っているものの大きさ重さが実感され、胸が塞ぐ

  白桃や弱音を吐かば寧(やす)からむ  みづえ

  時雨大路かたまり渡る修道尼    〃

  爽やかに乳房の創を二つ持つ   〃

  愛慾に似し句歴なれ花八つ手   〃

  おのれ賺(すか)すに梅雨の蘖もてあそぶ   〃

  女の中の女疲れや日向ぼこ     〃

  荒鵙をよろこぶ血汐かくし得ず    〃

 梅雨の蘖(ひこばえ)の句、意図せぬエロチシズムがあるのは、「賺(すか)す」という俗語のせいであろう。

 昭和四十年の句集に表現された女性の生。離縁による不幸が、俳句という魂の張形を求める。それを著者はあとがきにこう記す。

 「この短く美しく、不思議な魅惑に満ちた十七字の詩、俳句。早さ、重たさ、勁さを持ち、ひるがえるような調べを醸し出す魔もの、伝統と言霊のしろしめす俳句に、心を澄ませ、熱を出し、緻(こま)やかにつき合ってゆく。」    

  

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コメント

雪卍うたてや子らを置き去るか


うたて。うたてき。うたてえ。
うとましにつらなる奈良の方言。
石橋秀野に一文あり。

検索すると親鸞のことばに一つと、ここに一つ。☟

良い記事ひろったね。
方言はいいね。
夜さり>>言葉を大事にしている方だなとお見受けしました。

ぼん。ひらいてくれたんだね。看護師さんのブログみたいだよね。海外に出ると日本語に敏感になるのかな。

いまからふたみちゃんちをさがして、いってくる。
しらなかった、おかあさんがなくなられてた。うちの母と同い年の83歳。たえちゃんもまだ知らないのでは。きのう高塚のおばを久留米から送り、おなじ高塚在住、聞きました。おかあさん、去年はふたみちゃん宅に同居されていましてね。ひとりは心配だからといってたけどこんなになるとは。
役場の頁を、みてみた。
議会で答弁している☟。
おりなすやめ担当、。

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