無料ブログはココログ

« 点鐘116号 | トップページ | 句歌集・虹の橋 »

2006年5月 7日 (日)

水上源蔵という名の言霊

 西日本新聞の連載「九州の100冊」、今朝の一冊で久留米の母音派詩人・丸山豊の随想『月白の道』(1970、創言社刊)が採り上げられている。筆者は小郡支局・池田郷。

 「私たちはおたがいに心の虫歯をもっていたほうがよい。・・でないと、忘却というあの便利な力をかりて、微温的なその日ぐらしのなかに、ともすれば安住してしまうのだ」

 「戦争については、書けぬことと書かぬことがある。・・・それをどこまでも追い詰めるのが勇気であるか、化石になるまで忍耐するのが勇気であるか、私は簡単に答えることができない」

 「やまのけものおまえもみじめ

  兵士の肉をはらわたに納めます

  そのけものを追いつめて

  私のはらわたに納めます

  その順序に名前などありません」

 記者池田郷が丸山豊の本から引用した箇所はこれだけだ。だがわたしはこの記者の文章に打ちのめされてしまった。

 丸山豊「月白の道」は私も読んでいたし、とても感動した。それは詩人丸山豊の代表作であり、かたちは随想ながら、詩魂そのものとして取り扱われなければならぬものなのだ。だから詩人丸山豊を採り上げるときは迷わずこの一冊を私も択ぶ。ということで、その選択でまず、信用する。だが更に「そうだったのか!」とハッと気づかされたことがあった。この際だから、まるごと引用する。

 「魂の司令官」「戦場の闇での何ものにもまさる光」。丸山は、彼らを率いた少将・水上源蔵についてたびたび記した。だが、記者(池田郷。姫野註)はどうしても、丸山の尊敬の念ほどに、この人物に思い入れを抱くことができなかった。戦場でも理性を失うことなく、命を預かった兵の痛みと苦しみを思いやる水上少将は、撤退の途中で自ら命を絶った。だからこそ、丸山らが味わった後の生き地獄を知ることなく、最期を迎えられたとも思えるからだ。丸山自身も「どうも表現が難しい」と打ち明けているが、この人物の評価をめぐる戸惑いは、決してその筆力の問題ではあるまい。誤解を恐れずに言えば、水上少将とは、丸山の魂がつくり上げたヒューマニズムの偶像だった。過酷な戦場に生きる唯一の希望として、行き場のない精神の拠り所として、無意識にその存在を望んだのではなかろうか。

 「形だけの、体制に組み込まれた民主主義」「拝金社会」。丸山は戦後の日本社会に失望を隠さなかった。戦場でも、ヒューマニズムへの希望を捨てなかった丸山にとって、それを見失いゆく世間に身を置くのは堪え難かったに違いない。身近に戦場の名残さえ見当たらない、こんな時代だからこそ。ーーー以上、引用。

 水上源蔵。

 この名前のもつ限りないイメージは、ずっと永らく私を支配して、詩人丸山を想うときにいつも付随して影のように立ち顕れるようになっていた。それはじぶんが丸山豊と最初に出会ったのが、弟を急性薬物中毒でなくすという苦しみのなかであったからだ。鎮魂歌を書かずにいられなかった。そもそもそれがそういうたぐいのうたとはしらず、かかずにおれなかった。そして、それをとりあげてくださったのが、丸山先生だった。ーそれがわたしの詩のはじめにある。

 

 

« 点鐘116号 | トップページ | 句歌集・虹の橋 »

コメント

いろんな詩人がいるんだね。私は本当に無知です。有名どころくらいしか知らなくて…。特に地方の人となると、さっぱりです。地方在住の人は、その土地に根付いた部分も多いから、土地の人でないとわからない部分と、もっとグローバルな部分と、両方あるんだろうね。私的な部分に関しても、案外一般性のある特長もあるだろうしそんなことを考えながら読むのも面白いかな、と。いずれにせよ、もっと勉強しなくては…。

そうですね。丸山豊は中央では有名ではない。安西均のほうが有名だ。丸山は地方で生活した医師だったからというのもあるけど、暗記させられるほど派手な詩作品をすぐに挙げることができない弱点がある。人格者で沢山の人に詩を見出し影響を与えた人です。女優黒木瞳が少女のころ詩人の才能があるのを最初に発見したひとでもある。
人格と作品とは別ですね。100年単位でものごとを考えなきゃとおもうこのごろです。

この文章の中で触れている、池田郷記者に本日コメントいただきまして、ありがとうございました。
ここへひさしぶりにきました。
上記コメントをよせてくれている斧田千晴は既に故人です。
去年でした。
山内令南という名前で、癌だましい、という本をかいて、文學界新人賞をとって、旅立ってしまいました。
なんともいえません。無常の風つよし。

橘玲のこれをリンクしておかねば。↓

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 水上源蔵という名の言霊:

« 点鐘116号 | トップページ | 句歌集・虹の橋 »

最近のトラックバック

2019年7月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31