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2006年1月26日 (木)

無冠の男 3

(昨日よりのつづき)

 田口卯吉の姉婿木村熊二は上野彰義隊に関係したため、官軍の追及をのがれて京浜間を奔走し、家計を見る暇がない。

 妻鐙子、長男祐吉、そして田口家の祖母可都、母町子、卯吉の五人は江戸をのがれて横浜の程ヶ谷に仮の住まいを見つけた。

 食うために何かしなければならぬ、祖母は、裁縫の賃仕事をはじめた。しかし、動乱期に着物を新調するものもなく、注文は少ない。

 町子は鐙子とともに、商売をしてみることにした。近郊の農家をまわって鶏卵を買いあつめ、外人に売ろうとしたが、足もとを見られて買いたたかれ、失敗だった。

 タバコの小売りもしてみた。利益が少なくて永つづきしない。大福餅をつくり、夜、太田橋のほとりで売ってみたが、これも損をした。

 卯吉は乙骨太郎乙の紹介で、飯岡金次という人物の食客となった。飯岡は幕臣だったが、官軍に抵抗して失敗、横浜にかくれて小物問屋を太田町にひらき、同時に弁天通に古道具屋の夜店を出していた。

 卯吉ははじめ、米人宣教師や外人商館などに使われて英語を学ぶつもりであった。ある日、義兄熊二が卯吉に会うと、

「兄さん、商館では英語は学べません。主人はわからない日本語でモノを命じますから、こまります」という。

「何といったの?」

「あなた家あります、私まわろうまわろう、よろしい、といいますから、二度ばかり問い返したらたいそう腹を立てました」

「毛唐のことばはちょっと判断しなければわからない。それは、あなたは家があるからお帰りなさい、私は散歩してあとで帰るというのだろう。明日そういうたら、店をとじてお帰りなさい」

 その翌日、義兄のいうとおりにしたところ、外人は満足した。(つづく)

 

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